令和元年6月25日の法改正により、病院、診療所、児童福祉施設等などに新たに簡易型の竪穴区画がかかるようになりました。
間仕切壁、10分間防火設備、戸などで区画を行います。
新しい規定であまり馴染みがないと思いますので詳しく解説していきます。
まずは令第112条をチェック
法文を見てみよう
【建築基準法施行令第112条第12項、第13項】
第112 条 (防火区画)
12 3階を病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。次項において同じ。)又は児童福祉施設等(入所する者の寝室があるものに限る。同項において同じ。)の用途に供する建築物のうち階数が3で延べ面積が200㎡未満のもの(前項に規定する建築物を除く。)の竪穴部分については、当該竪穴部分以外の部分と間仕切壁又は法第2条第九号の二ロに規定する防火設備で区画しなければならない。ただし、居室、倉庫その他これらに類する部分にスプリンクラー設備その他これに類するものを設けた建築物の竪穴部分については、当該防火設備に代えて、10 分間防火設備(第109 条に規定する防火設備であって、これに通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後10 分間当該加熱面以外の面に火炎を出さないものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。第19 項及び第121 条第4項第一号において同じ。)で区画することができる。
13 3階を法別表第1(い)欄⑵項に掲げる用途(病院、診療所又は児童福祉施設等を除く。)に供する建築物のうち階数が3で延べ面積が200㎡未満のもの(第11 項に規定する建築物を除く。)の竪穴部分については、当該竪穴部分以外の部分と間仕切壁又は戸(ふすま、障子その他これらに類するものを除く。)で区画しなければならない。
建築基準法法令集 2025年版(令和7年版)より抜粋
分かりやすくマーキングしました。
小規模な竪穴区画とは?
令和元年6月25日の法改正により法6条1項一号の特殊建築物の面積が100㎡から200㎡に変更されました。
特殊建築物となる規模が拡大されることにより今まで竪穴区画がかかっていた建築物がかからなくなる事態が起きます。
例えば・・・
床面積150㎡の地上3階建ての病院 防火指定なし の場合
法改正前
耐火建築物とする必要あり → 竪穴区画が必要
法改正後
耐火建築物等以外とできる → 竪穴区画が不要
法改正により突然、耐火構造も不要、竪穴区画も不要となるのはとても危険ですよね。
そのため、主に就寝室を伴う用途に関しては簡易型の竪穴区画が義務付けられるようになりました。
小規模な竪穴区画の構造
対象となる建築物の用途(3階の部分が)
- 病院
- 診療所(収容施設のあるもの)
- 児童福祉施設等(入所者の寝室のあるもの)
- 児童福祉施設等(入所者の寝室のないもの)
- ホテル
- 旅館
- 下宿
- 共同住宅
- 寄宿舎
対象となる建築物の規模
- 階数が3
- 延べ面積が200㎡未満
対象となる建築物の部位
- 階段
- 吹抜け
- 昇降機の昇降路
- メゾネット住戸
- ダクトスペース
小規模な竪穴区画の構造
- 間仕切壁と20分間防火設備で区画(スプリンクラーがない場合)
- 間仕切壁と10分間防火設備で区画(スプリンクラーがある場合)
- 間仕切壁と戸で区画
※20分間防火設備とは通常の防火設備のことです。
表にまとめるとこんな感じです
3階の用途 | 壁の仕様 | 扉の仕様 |
児童福祉施設等(入所者の寝室のあるもの) 病院、診療所(収容施設のあるもの) | 間仕切壁 | 20分間防火設備(スプリンクラーなし) |
10分間防火設備(スプリンクラーあり) | ||
児童福祉施設等(入所者の寝室のないもの) ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎 | 間仕切壁 | 戸 |
※階数が3で200㎡未満 ※階段、吹抜け、昇降機の昇降路、メゾネット住戸、ダクトスペースと区画 ※主要構造部を耐火構造、準耐火構造とした場合は令112条11項の通常の竪穴区画がかかる |
補足:間仕切壁とは
令112条11項の竪穴区画で求められる区画壁は耐火構造や1時間準耐火構造などですが、本規定においては特に耐火要件はありません。
つまり何らかの間仕切壁があればOKです。
補足:10分間防火設備とは(告示198号)
10分間防火設備の構造は告示第198号に示されています。
告示を見てみよう
【建築基準法関係告示第198号】
令和2年2月27日 国土交通省告示第198号
10分間防火設備の構造方法を定める件
第一 建築基準法施行令第112条第12項他だし書に規定する10分間防火設備の構造方法は、次に定めるものとする。
一 建築基準法(昭和25年法律第201号。以下「法」という。)第2条第9号の二ロに規定する防火設備とすること。
二 通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後10分間当該加熱面以外の面に火炎を出さないものとして、法第61条の規定による国土交通大臣の認定を受けた防火設備とすること。
三 次に掲げる基準に適合するものとすること。
イ 補強材(鉄材又は鋼材で造られたものに限る。)の両面にそれぞれ厚さが0.5ミリメートル以上の鉄板又は鋼板(ハにおいて「表面材」という。)が堅固に取り付けられたものであること。
ロ 充填材を用いる場合にあっては、防火上支障のない性能を有するものが用いられたものであること。
ハ ガラスを用いる場合にあっては、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める基準に適合するものであること。
(1) 枠に鉄材若しくは鋼材を用いる場合又は枠を設けない場合 次の(ⅰ)又は(ⅱ)のいずれかに該当する構造であること。
(ⅰ) 網入りガラス(網入りガラスを用いた複層ガラスを含む。)を用いたもの
(ⅱ) 次に掲げる基準に適合するもの
(一) はめごろし戸であること。
(二) 次のいずれかに該当するガラスが用いられたものであること。
(イ) 強化ガラス(厚さが5ミリメートル以上であり、かつ、表面圧縮応力が140メガパスカル以上であるものに限る。(2)において同じ。)
(ロ) 耐熱強化ガラス(厚さが5ミリメートル以上であり、かつ、エッジ強度が250メガパスカル以上であるものに限る。(2)において同じ。)
(ハ) 耐熱結晶化ガラス(主たる構成物質が二酸化けい素、酸化アルミニウム及び酸化リチウムであるガラスをいい、厚さが五ミリメートル以上であり、かつ、線膨係数が摂氏30度から摂氏750度までの範囲において、一度につき〇プラスマイナス0.0000005であるものに限る。(2)において同じ。)
(三) 幅が700ミリメートル以下で高さが2100ミリメート以下の開口部に取り付けられたものであること。
(四) 火災時においてガラスが脱落しないよう、次に掲げる方法によりガラスが枠(枠を設けない場合にあっては、表面材。(イ)において同じ。)に取り付けられたものであること。
(イ) ガラスを鉄材、鋼材又はアルミニウム合金材で造られた厚さが一ミリメートル以上の取付部材(ガラスを枠に取り付けるために設置される部材をいう。(2)において同じ。)により枠に堅固に取り付けること。
(ロ) ガラスの下にセッティングブロックを設けること。
(ハ) ガラスの取付部分に含まれる部分の長さを6ミリメートル以上とすること。
(五) 火災時においてガラスの取付部分に隙間が生じないよう、取付部分にシーリング材又はグレイジングガスケットで、難燃性を有するもの(シリコーン製であるものに限る。(2)において同じ。)がガラスの全周にわたって設置されたものであること。
(六) 枠に鉄材又は鋼材を用いる場合にあっては、表面材の枠に含まれる部分の長さが2ミリメートル以上であること。
(2) 枠にアルミニウム合金材を用いる場合 次に掲げる基準に適合するものであること。
(ⅰ) はめごろし戸であること。
(ⅱ) 次のいずれかに該当するガラスが用いられたものであること。
(一) 網入りガラス
(二) 強化ガラス
(三) 耐熱強化ガラス
(四) 耐熱結晶化ガラス
(ⅲ) 幅が700ミリメートル以下で高さが2100ミリメートル以下の開口部に取り付けられたものであること。
(ⅳ) 火災時においてガラスが脱落しないよう、次に掲げる方法によりガラスが枠に取り付けられたものであること。
(一) ガラスを鉄材、鋼材又はアルミニウム合金材で造られた厚さが1ミリメートル以上の取付部材により枠に堅固に取り付けること。
(二) ガラスの下にセッティングブロックを設けること。
(三) ガラスの取付部分に含まれる部分の長さを6ミリメートル以上とすること。
(ⅴ) 火災時においてガラスの取付部分に隙間が生じないよう、取付部分にシーリング材又はグレイジングガスケットで、難燃性を有するものがガラスの全周にわたって設置されたものであること。
(ⅵ) 表面材の枠に含まれる部分の長さが2ミリメートル以上であること。
第二 第一第3号に該当する防火設備は、周囲の部分(当該防火設備から屋内側に15センチメートル以内の間に設けられた建具がある場合には、当該建具を含む。)が準不燃材料で造られた開口部に取り付けなければならない。建築基準法関係告示より引用
第三 防火戸が枠又は他の防火設備と接する部分は、相じゃくりとし、又は定規縁若しくは戸当りを設ける等閉鎖した際に隙間が生じない構造とし、かつ、防火設備の取付金物は、当該防火設備が閉鎖した際に露出しないように取り付けなければならない。
補足:戸とは
戸についても遮炎性能としての要件は特にありません。
何らかの戸が設置してあればOKです。
ただし、ふすまや障子のように即座に燃え抜けてしまうものは不可です。
また、『10分間防火設備』も『戸』も告示2563号の閉鎖性能、告示2564号の遮煙性能は求められますのでご注意ください。
告示2563号、2564号についてはこちらの記事で詳しく解説しています
小規模な竪穴区画についての法改正遍歴
小規模な竪穴区画の規定(令112条12項13項)が施行されたのは令和元年6月25日です。
それから改正はなく現行の法文になっています。
法改正遍歴、既存不適格を調べるには令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシートが非常に役立ちます。
まとめ
- 令和元年6月25日に法6条1項一号の改正に合わせて出来た規定である。
- 主に就寝用途のある建築物に関する規定である。
- 法別表第一の(2)の用途が対象である。
- 間仕切壁、防火設備、10分間防火設備、戸などで区画を行う。
- 告示2563号、2564号の性能は求められるので注意が必要である。