一級建築士製図試験における歩行距離、重複距離について疑問を持っている方が多いようです。
今回、過去問などから分析し、記載方法や注意点など私なりの考え方を解説します。
過去問の出題文章まとめと考察
過去11年間の歩行距離、重複距離に関する出題文の抜粋
年度 | 課題 | 記載すべき図面 | 記載すべき事項 |
令和5年 | 図書館 | 2階平面図及び3階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から2の直通階段に至る歩行経路、その一に至る歩行距離及び重複区間の長さ |
令和4年 | 事務所ビル | 2階平面図及び最上階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から 2 の直通階段に至る歩行経路、その一に至る歩行距離及び重複区間の長さ |
令和3年 | 集合住宅 | 2階平面図及び 3 階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から 2 の直通階段に至る歩行経路、その一に至る歩行距離及び重複区間の長さ |
令和2年 | 高齢者介護施設 | 2 階平面図及び 3 階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から 2 の直通階段に至る歩行経路を図示し、その一に至る歩行距離及び重複区間の長さ |
令和元年 | 美術館の分館 | 2 階平面図及び 3 階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から 2 の直通階段に至る歩行経路を図示し、その一に至る歩行距離及び重複区間の長さ |
平成30年 | 健康づくりのためのスポーツ施設 | 2 階平面図及び 3 階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から 2 の直通階段に至る歩行経路を図示し、その一に至る歩行距離及び重複区間の長さ |
平成29年 | 小規模なリゾートホテル | 2 階平面図及び 3 階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から 2 の直通階段に至る歩行経路を図示し、その一に至る歩行距離及び重複区間の長さ |
平成28年 | 子ども・子育て支援センター | 2 階平面図及び 3 階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から 2 の直通階段に至る歩行経路を図示し、その一に至る歩行距離及び重複区間の長さ |
平成27年 | 市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅 | 2 階平面図及び 3 階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から直通階段の一に至る歩行距離及び経路 |
平成26年 | 温浴施設のある「道の駅」 | 2階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から直通階段の一に至る歩行距離及び経路 |
平成25年 | 大学のセミナーハウス | 2階平面図には、次のものを図示又は記入する。 | 居室の最も遠い位置から直通階段の一に至る歩行距離及び経路 |
上の表から以下の事が分かります。
ポイント
- 過去10年間必ず歩行距離の記載が求められている。
- 平成27年以前は重複距離の記載が不要であった。
- 記載する図面は主に2階、3階平面図
過去問を調べてみて平成27年以前は重複距離の記載を求められていない事には驚きでした!
ちなみに重複距離は昭和44年に施行された規定です。
また、過去8年間記載すべき事項はほぼ同じ出題文章となっています。
『居室の最も遠い位置から 2 の直通階段に至る歩行経路、その一に至る歩行距離及び重複区間の長さ』
こちらの出題文章を分解して考えてみましょう。
起点となる場所
- 居室の最も遠い位置
記載すべき事項
- 2の直通階段に至る歩行経路
- その一に至る歩行距離
- 重複区間の長さ
居室の最も遠い位置とは?
居室の最も遠い位置とは一般的に建物の角や大きい居室の角となります。
また、出題文が『居室の最も遠い位置から…』となっている事から重複距離に比べて歩行距離に重きを置いている印象があります。
重複距離の一番長くなる位置と歩行距離の一番長くなる位置は必ずしも一致しませんので、どの位置を測定ポイントにするかが悩ましいところです。
わたしは出題文を素直に受け取ると測定ポイントは歩行距離の最大になる所が良いかと思います。
重複距離が最大となる部分も気になる所ですが、製図試験としては歩行距離が最大となる部分に記載しましょう。
じゃあ、両方書けばいいんじゃない?と思ってしまいますが、図面がごちゃごちゃになってしまいますし、歩行距離、重複距離の長さを測定して記載するのも結構時間がかかります。
加点がある訳では無いので時間をかけるのはもったいないです。
よって、1か所書けば十分だと思います。
だからといって重複距離がNGになっていいという訳では無いのでご注意ください。
記載すべき事項
記載すべき事項は『2 の直通階段に至る歩行経路』『その一に至る歩行距離』『重複区間の長さ』の3つです。
2の直通階段に至る歩行経路
測定ポイントから2つの階段への歩行経路を記載します。
経路を記載するだけで距離の記載は必要ありません。
その一に至る歩行距離
『その一』とは測定ポイントから近い階段を指します。
近い階段までの歩行距離を記載して下さい。
図書館の場合、歩行距離は50m以内となっており、そこへ至る経路の内装が準不燃以上であると+10mとなります。
製図試験においては内装の記載は求められませんので、内装制限をみたしているとみなし60m以内となります。
規模的に歩行距離が60mを超えることはほぼないかとは思いますが、知識として頭に入れておきましょう。
採光上、無窓居室の場合は30m+10mで40m以内となりますのでご注意ください。
無窓居室とならないよう居室は外壁面に面して計画し、必ず窓を設置しましょう。
天窓を設置し採光無窓を回避できる場合もありますので、こちらも頭の片隅に入れておいてください。
重複区間の長さ
『2の直通階段に至る歩行経路』の内、重複する部分の長さを記載します。
歩行距離の1/2となりますので30m以内(採光無窓の場合は20m以内)となります。
歩行距離、重複距離の注意点まとめ
どうしても重複距離がNGとなる場合は避難上有効なバルコニーを設置
重複距離がNGとなる場合は避難上有効なバルコニーを設置することで免除することができます。
その際に注意点があります。
重複距離の法文上、当該重複区間を経由せずに避難上有効なバルコニーに避難できる事とありますので、下の図の様に廊下に設置ではなく、当該居室内に避難上有効なバルコニーを設置する必要があります。
居室→廊下→居室→階段はNG?
2以上の直通階段への歩行距離、重複距離は原則として居室から廊下、廊下から階段へと繋がっていくべきもので、廊下から居室への経路は避難者の動線の混乱や避難経路の逆行である事から認められません。
そのことは建築物の防火避難規定の解説 2023にも記載されています。
建築物の防火避難規定の解説 2023は建築基準法に記載されていない取り扱いなどが数多く記載されています。
発行元の日本建築行政会議は各行政庁、指定確認検査機関などが会員となっており、定期的に検討会が行われ、掲載内容が決められます。国土交通省が監修していますので、指定確認検査機関での審査の参考としても使われます。
わたしも毎日のように見ています。
設計するうえでも必須の書籍です。
歩行距離の経路は斜めに設定してよい?
歩行距離の経路は斜めに設定して構いません。
(一部行政庁の取り扱いで斜めはNGという所もあるので地域性もあるかもしれません。)
過去問の標準解答例でも斜めに設定しているものも多くあります。
ただし、当該部分に什器、テーブルやいすなどがある場合はそれらを避けて歩行経路を設定しましょう。
什器や家具をなぎ倒して避難する人はいないですからね。
しかし、過去の標準解答例にテーブルやいすを横断して歩行距離を記載してあるものもありました。
標準解答例に出ているとはいえ、あまり良くないプランですので、避けて設定する様にしましょう。
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