防火規定

延焼のおそれのある部分の法改正の解説(告示197号による斜めの緩和、高さの緩和の合理化の理由と計算方法を図解付きで解説)

にゃんぴー

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延焼のおそれのある部分の法改正の解説

延焼のおそれのある部分の緩和規定が令和6年6月25日に施行、告示197号が令和2年2月27日に施行されました。

緩和の内容は外壁が延焼ラインに対し、斜めの場合に通常の3m、5mの長さが少し緩和されます。

また、敷地内に高さの異なる2棟が建っている場合、延焼ラインの高さが緩和されます。

今回の記事ではこの改正内容について合理化の理由、計算方法、注意点などを図解付きで解説します。

延焼のおそれのある部分の緩和規定はいつから?

令和元年6月25日に法第2条第1項六号に『ロ』が追加されました。

この『ロ』が延焼のおそれのある部分の角度に応じた緩和、高さに応じた緩和の規定です。

この規定が施行されたのは令和元年6月25日ですが、その具体的な内容を定める告示が当時はまだ制定されていませんでした。

告示(第197号)が施行されたのが令和2年2月27日です。

したがって、令和元年6月25日から令和2年2月27日の約8カ月の間は、この規定を適用することができませんでした。

実際にこの緩和規定が適用可能になったのは令和2年2月27日からという事になります。

法文、告示をチェック

法文を見てみよう

建築基準法 第2条

(用語の定義)
第2条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 延焼のおそれのある部分  隣地境界線、道路中心線又は同一敷地内の2以上の建築物(延べ面積の合計が500㎡以内の建築物は、1の建築物とみなす。)相互の外壁間の中心線(ロにおいて「隣地境界線等」という。)から、1階にあっては3m以下、2階以上にあっては5m以下の距離にある建築物の部分をいう。ただし、次のイ又はロのいずれかに該当する部分を除く。

 防火上有効な公園、広場、川その他の空地又は水面、耐火構造の壁その他これらに類するものに面する部分

 建築物の外壁面と隣地境界線等との角度に応じて、当該建築物の周囲において発生する通常の火災時における火熱により燃焼するおそれのないものとして国土交通大臣が定める部分

告示を見てみよう

令和2年2月27日 国土交通省告示第197号

建築物の周囲において発生する通常の火災時における火熱により燃焼するおそれのない部分を定める件

建築基準法(以下「法」という。)第二条第六号ロに規定する建築物の周囲において発生する通常の火災時における火熱により燃焼するおそれのない部分は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める建築物の部分以外の部分とする。

 隣地境界線等(法第二条第六号に規定する隣地境界線等をいう。以下同じ。)が同一敷地内の二以上の建築物(延べ面積の合計が五百平方メートル以内の建築物は、一の建築物とみなす。)相互の外壁間の中心線であって、かつ、当該隣地境界線等に面する他の建築物(以下単に「他の建築物」という。)が特定主要構造部が建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第百七条各号、同令第百七条の二各号、同令第百八条の四第一項第一号イ及びロ若しくは同令第百九条の三第一号若しくは第二号に掲げる基準に適合する建築物又は同令第百三十六条の二第一号ロ若しくは第二号ロに掲げる基準に適合する建築物である場合 次のいずれにも該当する建築物の部分

 隣地境界線等から、建築物の階の区分ごとに次の式によって計算した隣地境界線等からの距離以下の距離にある当該建築物の部分

d=max{D,A(1-0.000068θ)}

この式において、d、D、A及びθは、それぞれ次の数値を表すものとする。
d 隣地境界線等からの距離(単位メートル)
D 次の表の上欄に掲げる建築物の階の区分に応じ、それぞれ同表下欄に掲げる数値(単位メートル)
 一階 2.5   二階以上 4.0
A 次の表の上欄に掲げる建築物の階の区分に応じ、それぞれ同表下欄に掲げる数値(単位メートル)
 一階 3.0   二階以上 5.0
θ 建築物の外壁面(隣地境界線等に面するものに限る。)と当該隣地境界線等とのなす角度のうち最小のもの(当該外壁面が当該隣地境界線等に平行である場合にあっては、零とする。)(単位度)

 他の建築物の地盤面から、次の式によって計算した他の建築物の地盤面からの高さ以下にある建築物の部分

h=hlow+H+5√{1-(S/dfloor2

この式において、h、hlow、H、S及びdfloorは、それぞれ次の数値を表すものとする。
h 他の建築物の地盤面からの高さ(単位 メートル)
hlow 他の建築物の高さ(単位 メートル)
H 次の表の上欄に掲げる他の建築物の高さの区分に応じ、それぞれ同表下欄に掲げる数値(単位 メートル)
 5m未満 5   5m以上 10
S 建築物から隣地境界線等までの距離のうち最小のもの(単位 メートル)
dfloor イに規定する隣地境界線等からの距離のうち最大のもの(単位 メートル)

 前号に掲げる場合以外の場合 隣地境界線等から、建築物の階の区分ごとに前号イに掲げる式によって計算した隣地境界線等からの距離以下の距離にある建築物の部分

難しい公式に見えますが、計算はそれほど複雑ではありません。

次からひとつひとつ解説していきますね。

もぐら先生

改正内容の解説(角度に応じた緩和)告示第197号第一号イ

合理化の理由と内容

例えば、太陽光が垂直に地面に当たる場合、地面は最大限の熱を吸収します。しかし、斜めに当たる場合、同じ量の太陽光がより広い面積に分散されるため、各単位面積あたりに受ける熱量は減少します。

これを建物の防火規定に当てはめると、斜めの壁は火の熱が分散されて受けるため、延焼のおそれが少なくなります。

よって、斜めの外壁面に対しては3mや5mの延焼ラインを角度に応じて緩和しようという合理化です。

延焼-斜めの熱量が少ない理由

計算方法

公式

延焼ライン緩和-斜めの公式

『d』が緩和後の延焼ラインの距離です。

maxは{ }内の左側と右側の大きい方を選択するという意味です。

延焼ライン緩和-斜めの公式の解説

これにならって計算してみましょう。

延焼ライン緩和-斜めの図解

建築物の外壁ラインを延長して隣地境界線との成す角度が『θ』になります。

それぞれの外壁を延長すると2つのθがありますが、小さい方の角度を採用します。

上記の図解で行くと60°と30°なので小さい方の30°を採用します。

1階の計算をしてみましょう。

もぐら先生

計算式

d=max{2.5,3(1-0.000068θ2)}

d=max{2.5,3(1-0.000068×900)}

d=max{2.5,3(1-0.0612)}

d=max{2.5,3×0.9388}

d=max{2.5,2.8164}

d=2.8164

こちらの様に本来1階の3mの延焼ラインが2.8164mに緩和されます。

ここで一つ注意点!

もぐら先生
延焼ライン緩和-斜めの注意点

角度が2つあるから外壁面ごとに30°の外壁面は2.8164m、60°の外壁面は2.5mで設定できると勘違いしがちですが、一つの隣地境界線から発生する延焼ラインは一つですので、必ず小さい方の角度で計算し、その距離を適用して下さい。

もぐら先生

対象となる部分

延焼ラインは以下の3種類から発生しますが、角度に応じた緩和(告示第197号第一号イ)は下記の3種類すべての延焼ラインの適用可能です。

隣地境界線等

  • 隣地境界線
  • 道路中心線
  • 2以上の建築物の外壁中心線(2の建築物の合計が500㎡を超えるもの)

改正内容の解説(高さに応じた緩和)告示第197号第一号ロ

合理化の理由と内容

従前では階数の異なる2棟間の延焼ラインは相互の建物の高さに関係なく上部まで発生していました。

例えば10階建てと平屋建て建築物が同一敷地内にあって、平屋建ての建築物に火災がおきたとしても10階建ての建築物に延焼する範囲はせいぜい3~4階程度までであり、実際にはそれより上階に関してはほぼ影響がないと考えられます。

よって、2棟の高さに応じて延焼ラインが発生する部分を緩和しようという合理化です。

高さに応じた延焼ラインの合理化の理由

計算方法

公式

高さに応じた延焼ラインの緩和の公式

こちらの計算は少し複雑になりますので、図解を見ながら解説していきます。

もぐら先生
高さに応じた延焼ラインの図解

『h』より上の部分の延焼ラインが免除されます。

『h low』は低い方の建物の高さです。

『H』は低い方の建物の高さ(h low)が5m未満なら5、5m以上なら10となります。

『S』は建物から外壁間の中心線までの最短距離です。

『d floor』は角度に応じた延焼ラインの緩和の計算によって求められた距離です。

それでは例として下記の条件で計算してみましょう。

  • h low 4m
  • S 2m
  • d floor 4.8m
もぐら先生

計算式

h=hlow+H+5√{1-(S/dfloor2

h=4+5+5√{1-(2/4.8)2

h=9+5√{1-0.173611}

h=9+5√0.826389

h=9+4.545297

h=13.545297

この計算で行くと高い建物の13.54mより上部は延焼ラインが免除される事になります。

もぐら先生

対象となる部分

高さに応じた緩和(告示第197号第一号ロ)は下記の3種類のうち、『2以上の建築物の外壁中心線』のみで適用可能です。

隣地境界線や道路中心線からの延焼ラインは相互の建物高低差は測れないので当然適用できません。

隣地境界線等

  • 隣地境界線
  • 道路中心線
  • 2以上の建築物の外壁中心線(2の建築物の合計が500㎡を超えるもの)

対象となる条件

この告示を適用するにあたって条件があります。

それは低い方の建物に一定の耐火性能を求められるという事です。

求められる耐火性能は以下の通りです。

  • 主要構造部が耐火構造、準耐火構造
  • 準耐火建築物(ロ準耐)
  • 延焼防止建築物、準延焼防止建築物

まとめ

  • 令和元年6月25日に法第2条第1項六号に『ロ』が追加された。
  • しかし、具体的な内容を示す告示は未制定であった。
  • 翌年、令和2年2月27日に告示(第197号)が施行された。
  • 告示には角度に応じた緩和(第一号イ)、高さに応じた緩和(第一号ロ)がある。
  • 角度に応じた緩和(第一号イ) d=max{2.5,3(1-0.000068θ2)}
    • θは小さい方の角度を採用する事
    • 隣地境界線、道路中心線、隣棟間の延焼ラインに適用可能
  • 高さに応じた緩和(第一号ロ) h=hlow+H+5√{1-(S/dfloor2
    • 低い方の建物には一定の耐火性能が必要
    • 隣棟間の延焼ラインに適用可能

本記事の作成にあたり参考にした条文、書籍等

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