今回の記事は代替進入口です。
非常用進入口の代替措置として設けられますが、実務で設置されるほとんどが代替進入口です。
本記事では代替進入口の設置基準(設置が必要な部分、不要な部分)、サイズ(750×1200又は1mの内接円)、構造、進入をさまたげる構造、網入りガラスの可否、共同住宅の特例(住建発85号)、路地上敷地の取扱い、その他注意事項、法改正遍歴など図解付きでわかりやすく解説します。
是非最後までご覧ください。

まずは法文(令126条の6)をチェック
建築基準法法令集 2026年版(令和8年版)より抜粋まずは法文をチェック
建築基準法施行令
(設置)
第126 条の6 建築物の高さ31 m以下の部分にある3階以上の階(不燃性の物品の保管その他これと同等以上に火災の発生のおそれの少ない用途に供する階又は国土交通大臣が定める特別の理由により屋外からの進入を防止する必要がある階で、その直上階又は直下階から進入することができるものを除く。)には、非常用の進入口を設けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合においては、この限りでない。一 第129条の13 の3の規定に適合するエレベーターを設置している場合
二 道又は道に通ずる幅員4m以上の通路その他の空地に面する各階の外壁面に窓その他の開口部(直径1m以上の円が内接することができるもの又はその幅及び高さが、それぞれ、75㎝以上及び1.2 m以上のもので、格子その他の屋外からの進入を妨げる構造を有しないものに限る。)を当該壁面の長さ10 m以内ごとに設けている場合
三 吹抜きとなっている部分その他の一定の規模以上の空間で国土交通大臣が定めるものを確保し、当該空間から容易に各階に進入することができるよう、通路その他の部分であって、当該空間との間に壁を有しないことその他の高い開放性を有するものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものを設けている場合
代替進入口(だいたいしんにゅうこう)とは?
代替進入口(だいたいしんにゅうこう)とは、非常用進入口の代わりに設ける“消防隊が外部から建物に進入するための開口部”のことです。
火災などの非常時に、消防隊が消火・救助活動のために建物へ入るための窓や開口部を指します。
消防隊がはしご車を使って進入する事から、はしご車の届く高さ31m以下の部分に設置を義務付けられています。
非常用進入口に比べて構造が簡易でよい代わりに設置間隔を狭くし、数を増やす事で同等の機能を確保するという考え方で運用されています。
建築物には非常用進入口か代替進入口のどちらかを設ける必要がありますが、大半が代替進入口です。(9割がた代替進入口)


設置位置の基本ルール(設置基準)
代替進入口の設置位置の基本ルールは以下の通りです。
道路又は幅4m以上の通路に面する外壁面に設置
基本的には道路に面する外壁面に設置します。
敷地内に4m以上の通路がある場合は、どちらかの外壁面に設ければOKです。

3階以上の階、31m以下の部分に設置
3階以上の階で31m以下の部分に設置します。
階の途中で31mとなった場合はその階も対象となります。

外壁の長さ10m以内ごとに1箇所設置
道路に面する外壁の長さ10m以内ごとに代替進入口を設置します。

両端から10m以内なので1か所で良いと勘違いされる方が多くいますので気を付けて下さい。

2面道路の場合は2面の外壁を連続して考えて、10mごとに設置します。

設置しなくてもよい場合
以下の場合は非常用進入口、代替進入口の設置が不要です。
- 不燃性の物品の保管など火災の発生のおそれの少ない用途の階(令126条の3カッコ書き)
- 特別な理由ににより屋外からの進入を防止する必要がある階(令126条の3カッコ書き)(国交省告示1438号)次の理由に該当する場合は、その直上階又は直下階から進入することができれば進入口を設置しなくてもよい
- 進入口を設ける事により、周囲に著しい危害を及ぼすおそれがある場合
- 放射性物質、有害ガスその他の有害物質を取り扱う建築物
- 細菌、病原菌その他これらに類するものを取り扱う建築物
- 爆発物を取り扱う建築物
- 変電所
- 進入口を設ける事により、その目的の実現が図れない場合
- 冷蔵倉庫
- 留置所、拘置所その他人を拘禁することを目的とする用途
- 美術品収蔵庫、金庫室その他これらに類する用途
- 無響室、電磁しゃへい室、無菌室その他これらに類する用途
- 進入口を設ける事により、周囲に著しい危害を及ぼすおそれがある場合
- 非常用エレベーターを設けている場合(令126条の3第1項)
- 巨大な吹抜(直径40m)+開放通路を設けている場合(令126条の3第3項)(国交省告示786号)
構造の基本ルール
代替進入口の構造は以下の通りです。

| 進入口の大きさ | 幅は750以上、高さは1200以上 又は直径1mの円が内接できるもの |
| バルコニー | 必要なし |
| 標識 | 開口部がたくさんあり、どれが進入口なのか外見上判断しにくい場合は、その部分に赤色の三角マークを表示することが望ましい |
| 進入方法 | 外部より開放または破壊する事により進入できる事 |
| 進入をさまたげる構造で無いもの | 下記参照 |
進入をさまたげる構造とは?
進入をさまたげる構造については以下の通りです。
- 外部から開放不能なドア
- 金属製格子・手すり(破壊の容易な木製のもの、脱着可能なものは可)
- ルーバー
- 窓等を覆っている看板・広告版・ネオン管など
網入りガラスはOK?
引き違い戸、開き戸、すべり出し窓などは部分的に破壊して、解錠し開くので網入りガラスとする事ができます。
FIX窓に関しては全体を破壊して進入するため、網入りガラスは不可です。
延焼ラインなどの観点で防火設備とする事が必要な場合は、全体を破壊できるよう耐熱強化ガラスなどにしましょう。
ガラスの厚み、網入りの種類などについては所管の消防署または確認申請を提出する指定確認検査機関などに確認して下さい。
共同住宅の特例
共同住宅には代替進入口(非常用進入口)の特例があります。(昭和46年12月3日住建発第85号)
昭和46年の通達ではありますが、現在においても広く適用されています。
ただし、当時と現在では建築様式や建具の性能が大きく変化しているため、運用に際しては注意が必要です。
本通達では「各住戸のバルコニーまたは玄関から進入可能であること」が条件とされていますが、近年の玄関扉は防犯性が高く、破壊して進入することが困難になっています。
そのため、実務上はバルコニーから進入できることが主たる条件として扱われるケースが多くなっています。
上記でも紹介した『進入をさまたげる構造』に外部から開放不能なドアがありますので、共同住宅の玄関扉はそれに該当してしまいます。
結果として、全住戸のバルコニーが道路に面して設けられていることが、特例適用の前提条件となる場合が一般的です。
本通達の適用条件について申請先の特定行政庁又は指定確認検査機関にお問合せ下さい。
建築物の防火避難規定の解説 より引用
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特殊なケースの注意点
ここからは特殊なケースの場合の注意点を解説します。
路地状敷地の取扱い
4m以下の路地上敷地に建築する場合、下記の条件に注意ください。

- 道路から進入口までの延長が20m以下であること。
- 路地上部分の幅員が2m以上であること。
- 地階を除く階数が3であること。
- 特殊建築物の用途でないこと。
- 進入口(進入口に付随するバルコニーも含む)が道から直接確認できる位置に消火活動上有効に設置されていること。
上記を満たさないと進入口の規定(令126条の6)が不適合という事になりますので建築できません。(3階建てにできない。2階建てになる。)

対面道路の場合
L型の2面道路の場合は、その2面の外壁は連続して10mごとに設置すればよいですが、対面の2面道路の場合はそれぞれの外壁面に対して10mごとに設置する必要があります。

上図の様に、間口が12mで2面接道するパターンで考えてみると、L型の2面道路と対面の2面道路では進入口の必要個数が違います。
L型の2面道路は連続して考えられる分、必要個数を減らす事ができます。

がけや樹木で進入不可能な場合
立地条件により進入口を設けても、前面道路との高低差が著しい場合、樹木などにより はしご車の接近が難しい場合など、実際に消防隊の活動が極めて困難となる場合でも進入口の設置は必要か?
これについては昭和46年、大阪府建築士会から建設省住宅局建築指導課に同趣旨の照会があり次の通り回答されています。
(質問)
建築物の敷地が道路と高低差が大きく、消防車が進入できない場合に進入口を取っても無駄になるがこのような場合はどう考えておられるか。
(回答)
設問の場合にあっても、進入口の設置は必要である。ちなみに、消防対象物の個別の条件に応じて、公共消防側ではあらかじめ、消防戦闘方法を検討していることを念のため申し添える。なお、本件のような場合、非常用の進入口に変えて非常用のエレベーターの設置の方が望ましいと思われるが、その方向の行政指導もあり得ると考える。
昭和46年 大阪府建築士会から建設省住宅局建築指導課への照会 を引用
この回答の通り、原則は進入口の設置が必要となります。
消防はハシゴ車での進入だけでなく、いろいろな方法で進入を試みる訳ですので、設計側で勝手に不要とは判断せず、設置して下さい。という事ですね。
しかし、『消防戦闘方法を検討している』というのは面白い表現ですね。
また、非常用進入口の設置を不要とするため、非常用昇降機の設置も選択肢の一つです。

同一階で非常用進入口と代替進入口を併用しない
基本的に同一階で非常用進入口と代替進入口は併用しないこととしてください。
別の階であれば併用しても構いません。
しかし、下記の様に平面計画により妥当な場合は許容される場合もあります。
建築物の防火避難規定の解説 より引用
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代替進入口(令126条の6)の規定はいつから?法改正遍歴
代替進入口の規定(令126条の6)が施行されたのは昭和46年1月1日です。
昭和46年以前の建築物には非常用進入口、代替進入口が設置されていないので増改築などを行う際には注意が必要です。

その後、平成12年、平成13年などに改正があり、現行の法律になっています。
重要な部分だけピックアップして紹介します。
平成12年6月1日施行
不燃性の物品の保管などの階に進入口の設置が不要となりました。
法改正遍歴、既存不適格を調べるには建築確認申請 条文改正経過スーパーチェックシート 第5版が非常に役立ちます。
令和7年4月27日に新刊が発売! 令和7年4月の法改正に対応です!
まとめ
- 代替進入口(だいたいしんにゅうこう)とは、非常用進入口の代わりに設ける消防隊が外部から建物に進入するための開口部こと。
- 実務ではほとんどが代替進入口となる。
- 道路又は敷地内に4m以上の通路がある場合にはそのどちらかの外壁面に設置する。
- 3階以上の階で31m以下の部分に設置する。階の途中で31mとなった場合はその階も対象となる。
- 外壁の長さ10m以内ごとに設置する。二面道路の場合は外壁の長さを連続して考える。
- 設置が不要な場合は下記の通り
- 不燃性の物販の保管など火災の発生のおそれの少ない用途の階(令126条の3カッコ書き)
- 特別な理由ににより屋外からの進入を防止する必要がある階(令126条の3カッコ書き)(国交省告示1438号)
- 非常用エレベーターを設けている場合(令126条の3第1項)
- 巨大な吹抜(直径40m)+開放通路を設けている場合(令126条の3第3項)(国交省告示786号)
- 代替進入口の構造は以下の通り
- 幅は750以上、高さは1200以上又は直径1mの円が内接できるもの
- バルコニーは無くてもよい
- どれが進入口なのか外見上判断しにくい場合は、赤色の三角マークを表示することが望ましい
- 進入をさまたげる構造で無いもの
本記事の作成にあたり参考にした条文、書籍等
- 建築基準法施行令 第126条の3 (設置)
- 平成12年5月31日建設省告示第1438号 屋外からの進入を防止する必要がある特別の理由を定める件
- 平成28年5月30日国土交通省告示第786号 一定の規模以上の空間及び高い開放性を有する通路その他の部分の構造方法を定める件
- 昭和46年住建第85号 共同住宅における建築基準法施行令第126条の6の解釈について
- 昭和46年、大阪府建築士会から建設省住宅局建築指導課の照会
- 建築物の防火避難規定の解説 2025
- 建築確認申請 条文改正経過スーパーチェックシート 第5版


