今回は、避難安全検証法について解説します。
この規定は、内容が少々複雑で、専門的な計算も絡んでいるため、一般の方が中身を完璧に理解することは難しいかもしれません。
避難安全検証法は、複雑な計算よりも、制度全体の大まかな概要をつかむことが大切です。
今回の記事では、細かい計算は抜きにして制度の概略を理解し、どんな場面で活用できるのかを知って下さい。
避難安全検証法どのような場合に活用する?
避難安全検証法はどのような場合に活用できるのでしょうか?
避難安全検証法は避難に関する安全の検証を行う事で建築基準法の一定の規定を免除することができます。
例えば・・・
- 施主の要望で排煙窓を無くしたい
- デザイン的に防火区画を無くしたい
- 木質で仕上げたいので内装制限を無くしたい
などといった際に活用することができます。
免除できる規定は検証法の種類によって異なります。
免除できる規定は?
免除できる規定は検証法の種類によって以下の通りになります。
条項 | 避難安全検証法の種類 | ||||
区画 | 階 | 全館 | |||
令112条 | 7項 | 高層区画 | 免除 | ||
11項 | 竪穴区画 | 免除 | |||
12、13項 | 竪穴区画 | 免除 | |||
18項 | 異種用途区画 | 免除 | |||
令119条 | 廊下の幅 | 免除 | 免除 | ||
令120条 | 直通階段への歩行距離 | 免除 | 免除 | ||
令123条 | 1項一号 | 屋内避難階段の階段室の構造 | 免除 | ||
1項六号 | 屋内避難階段の階段に通ずる出入口の構造 | 免除 | |||
2項二号 | 屋外避難階段の階段に通ずる出入口の構造 | 免除 | |||
3項一号 | 特別避難階段の附室等の設置 | 免除 | 免除 | ||
3項二号 | 特別避難階段の階段室、附室の構造(排煙) | 免除 | 免除 | ||
3項三号 | 特別避難階段の階段室、附室等の構造(耐火構造) | 免除 | |||
3項十号 | 特別避難階段の階段室、附室等に通ずる出入口の構造 | 免除※2 | 免除 | ||
3項十二号 | 特別避難階段の附室等の面積 | 免除 | 免除 | ||
令124条 | 1項一号 | 物販店舗の避難階段の幅 | 免除 | ||
1項二号 | 物販店舗の避難階段への出入口の幅 | 免除 | 免除 | ||
令125条 | 1項 | 階段から屋外への出口への歩行距離 | 免除 | ||
3項 | 劇場等の屋外への出口の戸 | 免除 | |||
令126条の2 | 排煙設備の設置 | 免除 | 免除 | 免除 | |
令126条の3 | 排煙設備の構造 | 免除 | 免除 | 免除 | |
令128条の5 ※1 | 内装制限 | 免除 | 免除 | 免除 |
※1 2項、6項、7項、階段に係る部分を除く。
※2 屋内からバルコニー又は附室に通ずる出入口に係る部分に限る。
ここでいくつか注意点があります。
適用除外とならない規定
❶内装制限
内装制限の内、自動車車庫・自動車修理工場の内装制限(2項)、内装制限を受ける調理室等(6項)、適用除外規定(7項)、階段の内装制限は免除されないので注意ください。
❷重複距離
歩行距離(令120条)の規定が免除されても重複距離(令121条3項)の規定は免除されません。
歩行距離の検討は不要ですが、重複距離の検討はする必要があります。ご注意ください。
❸防煙区画
500㎡以内の防煙区画(令126条の3)も免除されます。
しかし、避難安全検証法において、設置されている排煙設備の構造方法や室の大きさなどを考慮して計算が行われている事から、防煙区画の面積は1500㎡以内である事が条件になっています。
つまり、500㎡の防煙区画は1500㎡の防煙区画となります。
全館、階、区画の違いとは?
全館避難安全検証法、階避難安全検証法、区画避難安全検証法の違いは検証を行う範囲の違いです。
図にあらわすと以下の通りです。
どのような検証を行うのか?
避難安全検証法の検証内容は『煙の降下時間』と『避難完了時間』を比較して行います。
避難上支障となる高さ(1.8m)まで煙が降下するまでの間に在館者の避難がすべて完了すればOKとなります。
ポイント
煙の降下時間 > 避難完了時間 ・・・OK
煙の降下時間の算定法
火災室の床面積、天井高、壁の構造、開口部の構造、家具等の発熱量、内装仕上、防煙区画、排煙方式などを元に煙の降下時間を計算します。
避難完了時間の算定法
火災の覚知に要する時間、歩行時間、出口通過時間の合計で避難完了時間を計算します。
検証を行う部屋は火災室すべて
避難安全検証法における検証を行う部屋は『火災室』のすべての部屋です。
『火災室』とは火災の発生のおそれの少ない室(平成12年告示1440号)以外の部屋すべてです。
火災の発生のおそれの少ない室(告示1440号)
壁、天井の室内に面する部分の仕上を準不燃材としたもので下記の室の部分
- 昇降機その他の建築設備の機械室
- 不燃性の物品を保管する室
- 廊下、階段、その他の通路、便所
つまり、居室すべてと上記以外の室が火災室となり、当該各部屋について避難安全検証法の検証を行う必要があります。
ルートA、B、Cとは?
避難安全検証法にはルートA、B、Cがあります。
更にルートBにはB1、B2の2種類があります。
ルートA
ルートAは仕様基準になります。
居室の各部分から階段までの歩行距離の上限や排煙設備の構造など、避難安全を確保するための様々な方策を仕様書的に定られた基準をルートAと呼びます。
つまり、特殊な計算によらず建築基準法に則る事を示します。
避難安全検証法を使わないのに避難安全検証法のルートAって何だか不思議な感じですよね。
ルートB
ルートBはこれまで説明してきたみなさんがイメージする一般的な避難安全検証法の事を指します。
ルートBにはB1とB2の2種類があります。
B1は『時間判定法』で今まで説明してきた内容です。
B2は『高さ判定法』で令和3年に新設された判定法で避難完了時点の煙層下端の高さと限界煙層高さを比較して判定を行う方法です。
全館、階、区画避難安全検証法の3種類に対してそれぞれB1、B2の判定法の告示があるため、計6つの告示が存在します。
区画避難安全検証法 | 階避難安全検証法 | 全館避難安全検証法 | |
B1(時間判定法) | 令和2年告示第509号 | 令和2年告示第510号 | 令和2年告示第511号 |
B2(高さ判定法) | 令和3年告示第474号 | 令和3年告示第475号 | 令和3年告示第476号 |
上記の告示は告示編が別冊となっている様な告示が充実している法令集でないと載っていません。
おすすめの最新の法令集はこちらの記事をご覧ください。
ルートC
ルートCは告示によらず大臣認定を取得する方法です。
ルートBよりも更に設計の自由度が上がりますが、大臣認定の取得には多くの時間がかかります。
なお、大臣認定を取得したあとに確認申請が必要となります。
ルートB1とB2の違いは?
ルートB2は令和3年に新設された新たな判定手法です。
過去の火災等の統計から研究が進み被害のおきやすい部分はどこなのかが分かってきました。
- 火災発生室の階より上階の方が被害が大きい。
- 火災発生室の階より下階ではほとんど被害がない。
- 面積の大きな居室では出口付近、階段での滞留が起きやすく避難に時間を要する。
以上の様なことからルートB2では被害状況の実態に応じた安全率が設定されています。
ルートB1の安全率は床面積の大小、火災発生室の上階下階などに関わらず一定の安全率ですが
ルートB2では安全率が変動します。
つまり、小さな居室や下階ではB2が有利な結果となり、大きな居室や上階ではB1が有利な結果が出やすいという事になります。
安全率の設定が違うので両方を混在して検証を行うことはできません。
ルートB2はたくさんの要素から判定を行うので入力項目もルートB1に比べて膨大になります。
建築物の特性に応じて最適な判定法を選択しましょう。
避難安全検証法を適用するにあたってのメリット、デメリット
避難安全検証法を適用するメリットは上記で説明してきたように建築基準法の各規定を免除できる事から設計の幅が広がります。
ではデメリットは何でしょうか?
費用がかかる
避難安全検証法の適用にあたっては外注など専門の計算会社を利用することが多く外注費がかかります。
また、確認申請においても避難安全検証法がある場合、追加料金がかかるのが一般的です。
軽微変更ではなく計画変更となる
工事中において設計変更が発生した場合、軽微変更又は計画変更の申請を行う必要があります。
通常、軽微変更で申請可能な場合でも避難安全検証法の再計算が必要となる場合には計画変更となります。
計画変更となると軽微変更より費用や時間が多くかかる事となります。
増築、用途変更等が困難になる
増築、用途変更など既存建物の改修を行う際、既存部分について適合している事又は既存不適格である事を確認する必要があります。
既存部分に避難安全検証法が使用されていると適合性の再確認が困難となり、増築・用途変更などができない場合もあります。
建築主にとって改修等が行えないとなると大きなデメリットとなります。
避難安全検証法が適用できない建築物、適用が向かない建築物
自力避難が困難な者が利用する建築物
基本的に自力避難を前提に検証が行われていますので、自力避難が困難な者が利用する病院、診療所、児童福祉施設等、幼保連携型認定こども園は原則として避難安全検証法を適用する事ができません。
ただし、改正により、一定の条件を元にルートB2を適用する事が可能となりました。
主要構造部が不燃材料又は準耐火構造
主要構造部が不燃材料又は準耐火構造となっていない建築物には適用する事ができません。
共同住宅、ホテルなど
共同住宅などの住宅、ホテルなどは天井高が低い為、煙だまりを確保できずほとんどの場合、避難安全検証法による計算が成り立たず適用が困難です。
また、共同住宅、ホテルなどは令126条の2第1項一号の排煙の免除規定があるため採用するメリットもそれほど多くありません。
避難安全検証法は排煙免除を目的に適用されるケースが多いですからね。
法改正遍歴
区画避難安全検証法(令128条の6)の規定が施行されたのは令和2年4月1日です。
階避難安全検証法(令129条)、全館避難安全検証法(令129条の2)の規定が施行されたのは平成12年6月1日です。
その後、平成13年、平成27年、平成28年、平成30年、令和元年、令和2年に改正があり、現行の法文になっています。
重要な部分だけピックアップして紹介します。
令和2年4月1日施行
区画避難安全検証法『令128条の6』が新設され
階避難安全検証法が『令129条の2』から『令129条』に移動
全館避難安全検証法が『令129条の2の2』から『令129条の2』に移動されました。
令和3年5月28日施行
法文の改正ではありませんが、ルートB2の告示第474号、第475号、第476号がここで施行されました。
法改正遍歴、既存不適格を調べるには令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシートが非常に役立ちます。
まとめ
- 避難安全検証法は、複雑な計算よりも、制度全体の大まかな概要をつかむことが大切である。
- 避難安全検証法は、適用する事で建築基準法の一部の規定を免除することができる。
- 免除される規定は区画、階、全館の検証法によって異なる。
- 検証を行う範囲は
- 区画避難安全検証法は防火区画内の各火災室から防火区画の外まで
- 階避難安全検証法は当該階の各火災室から直通階段まで
- 全館避難安全検証法は建物全体の各火災室から屋外まで
- 検証の内容は 煙の降下時間>避難完了時間 で行う。
- ルートA、B1、B2、Cの種類がある。
- 避難安全検証法のデメリットは費用や時間が多くかかる。増改築等が困難となる。
- 自力避難が困難な用途、主要構造部が不燃材・準耐火構造でない場合は避難安全検証法の適用ができない。
- 共同住宅、ホテルなど天井高の低い建築物は避難安全検証法の適用が困難。
これらの特性を踏まえ上手に避難安全検証法を活用していきましょう。