排煙はとても事前相談の質問が多い項目です。
なぜ質問が多いかというと排煙の規定は建築基準法に直接記載されていない内容が多いのです。
記載されていない内容は建築物の防火避難規定の解説 2023や建築設備設計・施工上の運用指針 2019(第2版)を参考にする必要があります。
ぜひ、こちらを手元にお持ちになって本記事をご覧ください。
排煙設備とは?
建築物の安全性確保として欠かせない排煙設備は、火災発生時における建物内に発生した煙や有害物質を速やかに排出し、居住者や利用者の安全を確保する役割を果たしています。
排煙設備には『自然排煙』と『機械排煙』があります。
まずは令126条の2とその関連条文をチェック
法文を見てみよう
建築基準法第35条
(特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準)
第35 条 別表第1い欄⑴項から⑷項までに掲げる用途に供する特殊建築物、階数が3以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に2以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計)が1,000㎡をこえる建築物については、廊下、階段、出入口その他の避難施設、消火栓、スプリンクラー、貯水槽その他の消火設備、排煙設備、非常用の照明装置及び進入口並びに敷地内の避難上及び消火上必要な通路は、政令で定める技術的基準に従って、避難上及び消火上支障がないようにしなければならない。建築基準法施行令第126条の2
第3節 排煙設備
(設置)
第126 条の2 法別表第1い欄⑴項から⑷項までに掲げる用途に供する特殊建築物で延べ面積が500㎡を超えるもの、階数が3以上で延べ面積が500㎡を超える建築物(建築物の高さが31m以下の部分にある居室で、床面積100㎡以内ごとに、間仕切壁、天井面から50㎝以上下方に突出した垂れ壁その他これらと同等以上に煙の流動を妨げる効力のあるもので不燃材料で造り、又は覆われたもの(以下「防煙壁」という。)によって区画されたものを除く。)、第116 条の2第1項第二号に該当する窓その他の開口部
を有しない居室又は延べ面積が1,000㎡を超える建築物の居室で、その床面積が200㎡を超えるもの(建築物の高さが31 m以下の部分にある居室で、床面積100㎡以内ごとに防煙壁で区画されたものを除く。)には、排煙設備を設けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する建築物又は建築物の部分については、この限りでない。
一 法別表第1い欄⑵項に掲げる用途に供する特殊建築物のうち、準耐火構造の床若しくは壁又は法第2条第九号の二ロに規定する防火設備で区画された部分で、その床面積が100㎡(共同住宅の住戸にあっては、200㎡)以内のもの
二 学校(幼保連携型認定こども園を除く。)、体育館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場又はスポーツの練習場(以下「学校等」という。)三 階段の部分、昇降機の昇降路の部分(当該昇降機の乗降のための乗降ロビーの部分を含む。)その他これらに類する建築物の部分
四 機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫その他これらに類する用途に供する建築物で主要構造部が不燃材料で造られたものその他これらと同等以上に火災の発生のおそれの少ない構造のもの
五 火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分として、天井の高さ、壁及び天井の仕上げに用いる材料の種類等を考慮して国土交通大臣が定めるもの
2 次に掲げる建築物の部分は、この節の規定の適用については、それぞれ別の建築物とみなす。
一 建築物が開口部のない準耐火構造の床若しくは壁又は法第2条第九号の二ロに規定する防火設備でその構造が第112 条第19 項第一号イ及びロ並びに第二号ロに掲げる要件を満たすものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの若しくは国土交通大臣の認定を受けたもので区画されている場合における当該区画された部分
二 建築物の2以上の部分の構造が通常の火災時において相互に煙又はガスによる避難上有害な影響を及ぼさないものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものである場合における当該部分建築基準法施行令第116条の2
(窓その他の開口部を有しない居室等)
第116 条の2 法第35 条(法第87 条第3項において準用する場合を含む。第127 条において同じ。)の規定により政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、次の各号に該当する窓その他の開口部を有しない居室とする。
一 面積(第20 条の規定より計算した採光に有効な部分の面積に限る。)の合計が、当該居室の床面積の1/20以上のもの
二 開放できる部分(天井又は天井から下方80㎝以内の距離にある部分に限る。)の面積の合計が、当該居室の床面積の1/50以上のもの
2 ふすま、障子その他随時開放することができるもので仕切られた2室は、前項の規定の適用については、1室とみなす。建築基準法、建築基準法施行令より引用
分かりやすくマーキングしました。
お手持ちの法令集の法文が変わっていたら最新の法令集にしましょう。
最新の法令集のおすすめは下記の記事をご覧ください。
排煙設備が必要な建築物、建築物の部分
排煙設備が必要な建築物、建築物の部分は下記の通りです。
- 法別表第1い欄⑴項から⑷項までに掲げる用途に供する特殊建築物で延べ面積が500㎡を超える建築物(建築物全体)
- 階数が3以上で延べ面積が500㎡を超える建築物(建築物全体)
- 第116 条の2第1項第二号に該当する窓その他の開口部を有しない居室(建築物の部分)
- 延べ面積が1,000㎡を超える建築物の居室で、その床面積が200㎡を超えるもの(建築物の部分)
❶❷は建築物全体が対象となり、❸❹は建築物の部分が対象となります。
更に法別表第1い欄⑴項から⑷項までに掲げる用途に供する特殊建築物とは以下の特殊建築物を指します。
法別表第1い欄(1)項から(4)項までに掲げる用途に供する特殊建築物とは?
法別表第1(い)欄 | その他これらに類するもの(令115条の3) | |
---|---|---|
(1) | 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場 | - |
(2) | 病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎 | 児童福祉施設等 (幼保連携型認定こども園を含む。以下同じ。) |
(3) | 学校、体育館 | 図書館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場又はスポーツの練習場 |
(4) | 百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場 | 公衆浴場、待合、料理店、飲食店又は物品販売業を営む店舗(床面積が10㎡以内のものを除く。) |
排煙を理解する上でおさえておきたいポイント
令126条の2と令116条の2の違いって何?
令126条の2は前述に示した建築物、建築物の部分に排煙設備が必要となります。
令116条の2は排煙上無窓の居室かどうかを検討し、排煙無窓の場合、令126条の2の排煙設備が必要となります。
つまり、排煙設備が必要となるのは令126条の2の場合のみなのですが、両方とも1/50の検討をするため混同しがちです。
また、令116条の2の排煙無窓の検討は令126条の3(排煙設備の構造)がかからないので1/50の検討をする上で少し条件が緩くなります。
『防煙壁』ってどんなもの?
形状
- 間仕切壁
- 天井面から50cm以上下方に突出した垂れ壁
構造
- 不燃材料で造られたもの
- 不燃材料で覆われたもの
また、30cmの防煙垂れ壁の下部に常時閉鎖式又は煙感知器連動の不燃戸を設けた場合、それは防煙壁として扱われます。
排煙設備が免除される建築物、建築物の部分
- 法別表第1(い)欄(2)項の特殊建築物で100㎡以内に区画されたもの(共同住宅の住戸は200㎡以内)(ただし書き一号)
- 学校等(学校、体育館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツの練習場)(ただし書き二号)
- 階段の部分、昇降機の昇降路の部分、その他これらに類するもの(ただし書き三号)
- 機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫で主要構造部を不燃材料で造られたもの(ただし書き四号)
- 排煙告示(ただし書き五号)
- 住宅、長屋の住戸で階数が2以下、延べ面積200㎡以下で換気1/20以上の開口部を有するもの(1436号四イ)
- 児童福祉施設等、博物館、美術館、図書館の避難階又は避難階の直上階で避難が容易なもの(1436号四ロ)
- 危険物の貯蔵所、処理場、自動車車庫、通信機器室、繊維工場で一定の消火設備が設けられたもの(1436号ハ)
- 高さ31m以下の部分で一定の内装制限、防火区画などがされているもの(1436号二)
- 高さ31mを超える部分で一定の内装制限、防火区画などがされているもの(1436号ホ)
- その他の免除
- 避難安全検証法を行ったもの
- 風除室、刑務所など
注意点、間違えやすいポイントを一つずつ解説していきますね。
法別表第1(い)欄(2)項の特殊建築物で100㎡以内に区画されたもの(共同住宅の住戸は200㎡以内)(ただし書き一号)
対象となる特殊建築物は病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎、児童福祉施設等です。
多く採用されるのは共同住宅です。
共同住宅の住戸は200㎡以内で区画され、廊下・エントランス・管理室等は100㎡に区画されていれば適用する事ができます。
区画は準耐火構造(耐火建築物は耐火構造)の床、壁、開口部は防火設備で区画します。
学校等(学校、体育館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツの練習場)(ただし書き二号)
『学校等』=『法別表第1い(2)の特殊建築物』と思いがちですが、図書館が除かれています。
また、幼保連携型認定こども園は学校と児童福祉施設等の両方の規定の厳しい方がかかってくることから児童福祉施設等として排煙の規定がかかります。
学校等の中でも複合建築物、利用形態などにより排煙の規定を免除できない場合もあります。
- 遊技場等の用途に供する部分と一体となったボーリング場など
- 観覧席を設けて観覧場として利用する運動場など
- 夜間に利用する学校など
階段の部分、昇降機の昇降路の部分、その他これらに類するもの(ただし書き三号)
その他これらに類する建築物の部分は、他の部分と区画されたDS、PS、EPSなどが該当します。
自走式の駐車場でスロープ部分と駐車場スペースが防火区画されている場合は、スロープ部分をその他これらに類するものと扱い、排煙の規定を免除することができます。
また、その他これらに類するものに『シャフト、洗面所、便所、局部的な倉庫、更衣室、機械室、電気室など』が該当すると勘違いされる方がいます!
要注意
昭和46年住指発第44号に『建築物のシャフトの部分、洗面所、便所の部分等』はその他これらに類するものとして扱うという通達がありました。
しかし、その後平成12年5月31日に本通達は廃止され、平成12年6月1日に平成12年建設省告示第1436号が定められました。
本通達のみを見て排煙の規定が免除できると勘違いしないようご注意ください。
昭和46年住指発第44号 排煙部分抜粋
8. 排煙設備(法第35条、令第126条の2、第126条の3)
昭和46年住指発第44号より引用
令第126条の2第1項第3号は、排煙設備を設置する必要がない部分、又は別途排煙設備の設置を義務付けている部分等を例示したものであるから建築物のシャフトの部分、洗面所、便所の部分等はこれに該当するものとして差し支えない。排煙上有効な開口部の面積が防煙区画部分の床面積の50分の1以上である場合は、当該開口部が排煙設備とされ、別途機械排煙を行なう必要はない。なお、排煙設備の構造については、昭和45年12月28日建設省告示第1829号を参照されたい。
機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫で主要構造部を不燃材料で造られたもの(ただし書き四号)
機械製作工場、不燃性の物品を補完する倉庫は例え出火したとしても火災が拡大せずに避難や初期消火で対処できる事を前提としています。
よって、倉庫の保管物などは不燃性である必要があります。
機械製作工場とは『機械を』製作する工場であり、『機械で』製作する工場では無いのでご注意ください。
その他これらに類する建築物は、生鮮食料品の卸売市場などが該当します。
平成12年 告示1436号
告示1436号に適合させることにより排煙の規定を免除することができます。
排煙告示についてはこちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
避難安全検証法を行ったもの
避難安全検証法を行うことにより排煙の規定を免除することができます。
避難安全検証法の詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
風除室、刑務所など(住指発第744号)
風除室の排煙免除
風除室は一般的に建築物の出入口部分に設けるものであり、小規模ですぐに屋外に避難することができるため、排煙設備の設置は不要とされています。
刑務所の排煙免除
刑務所で監獄のために使用される部屋に関しては排煙窓などの排煙設備を設置することが困難である事から一定の条件を満たした場合、排煙設備の設置は不要とされています。
令126条の2 本文中のカッコ書きについて
階数が3以上で延べ面積が500㎡を超える建築物のカッコ書きの意味を勘違いされる方が多くいます。
カッコ書きの内容
(建築物の高さが31m以下の部分にある居室で、床面積100㎡以内ごとに、間仕切壁、天井面から50㎝以上下方に突出した垂れ壁その他これらと同等以上に煙の流動を妨げる効力のあるもので不燃材料で造り、又は覆われたもの(以下「防煙壁」という。)によって区画されたものを除く。)
とありますが、100㎡以内に防煙区画をすれば排煙設備の設置が不要という訳ではありません。
要注意
上記のイラストの様に、あらわしの天井で梁のせいが500mmを超える場合、梁が防煙垂れ壁となり細かく区切られた防煙区画が自動的にできてしまいます。
その場合、原則として各防煙区画に排煙窓が必要となりますが、それは合理的ではありません。
そのため、居室合計の280㎡の1/50の面積が外壁側の排煙窓で取れれば防煙区画B、Cは排煙無窓とならないというのが、カッコ書きの内容です。
令126条の2第2項について
第一号
本規定は既存不適格建築物に増築する場合に適用できる規定です。(遡及適用の救済規定)
新築の場合には適用できないのでご注意ください。
第二号
アトリウム等の大規模な空間で区切られている場合、別棟として排煙の規定を適用する事ができます。
高さ6m、幅6m以上の空間を持つ排煙設備を設けたアトリウムで区画されたA棟、B棟は別棟とみなし排煙設備の規定を適用する事ができます。
排煙についての法改正遍歴、既存不適格
排煙の規定(令126条の2)が施行されたのは昭和46年1月1日です。
その後、昭和49年、昭和62年、平成5年、平成12年、平成13年、平成17年、平成27年、令和2年に改正があり、現行の法文になっています。
重要な部分だけピックアップして紹介します。
昭和62年11月16日施行
ただし書き一号のカッコ書き(共同住宅の住戸は200㎡以内)が追加されました。
ただし書き二号が学校、体育館のみでしたが、ボーリング場、スキー場、水泳場、スポーツ練習場が追加され、それらが『学校等』と定義されました。
平成12年6月1日施行
ただし書き五号が新設されました。(告示1436号施行)
平成27年4月1日施行
学校等から幼保連携型認定こども園が除かれました。
令和2年4月1日施行
2項二号(アトリウム等で別棟と扱う)が新設されました。
上記のについては既存不適格となる可能性がありますので増築等の場合にはご注意ください。
法改正遍歴、既存不適格を調べるには令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシートが非常に役立ちます。
法改正遍歴を知ると法文への理解が深まります。
まとめ
- 排煙設備とは自然排煙と機械排煙を示す。
- 排煙の必要な建築物、建築物の部分は
- 法別表第1い欄⑴項から⑷項までに掲げる用途に供する特殊建築物で延べ面積が500㎡を超える建築物(建築物全体)
- 階数が3以上で延べ面積が500㎡を超える建築物(建築物全体)
- 第116 条の2第1項第二号に該当する窓その他の開口部を有しない居室(建築物の部分)
- 延べ面積が1,000㎡を超える建築物の居室で、その床面積が200㎡を超えるもの(建築物の部分)
- 令126条の2と令116条の2の違い:令126条の2は排煙設備の規定、令116条の2は排煙無窓の検討
- 防煙区画とは不燃材料で造る又は覆われた
- 間仕切壁
- 50cmの垂れ壁
- 30cmの垂れ壁+常閉の不燃戸
- 排煙設備を免除される建築物、建築物の部分は
- 法別表第1(い)欄(2)項の特殊建築物で100㎡以内に区画されたもの(共同住宅の住戸は200㎡以内)(ただし書き一号)
- 学校等(学校、体育館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツの練習場)(ただし書き二号)
- 階段の部分、昇降機の昇降路の部分、その他これらに類するもの(ただし書き三号)
- 機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫で主要構造部を不燃材料で造られたもの(ただし書き四号)
- 排煙告示に適合するもの(ただし書き五号)
- 避難安全検証法、風除室、刑務所(その他)
- 令126条の2カッコ書きは自動的に防煙区画された部分を一体の部屋と扱うという意味
- 令126条の2第2項一号は新築には使えない。二号はアトリウムの緩和。
- 平成12年6月1日に告示1436号が施行された。