- 避難上有効なバルコニーってどういう時に採用されるの?
- 建築基準法に書いてないけどどういう構造にすればよいの?
そういった疑問にお答えします。
今回の授業では避難上有効なバルコニーを徹底解説します。
避難上有効なバルコニーとは?
避難上有効なバルコニーは災害や緊急事態時に避難や救助活動を行う際に利用できる安全な場所を指します。
建築基準法では主に2方向避難の一つとして使用されます。
次からは具体的にどういった場面で使われるのか解説します。
建築基準法における避難上有効なバルコニーが使われる場面
建築基準法において避難上有効なバルコニーが使われる場面は主に次の3つです。
- 2以上の直通階段の免除(令121条1項六号イ)
- 重複距離の免除(令121条3項)
- 木三共(平成27年2月23日 告示第255号)
1つずつ解説していきます。
2以上の直通階段の免除(令121条1項六号イ)
6階以上の階に居室を有する建築物には原則として2以上の直通階段を設置する必要があります。
ただし、6階以上の居室の面積が100㎡以下(耐火建築物、準耐火建築物などは200㎡以下)で屋外避難階段or特別避難階段+避難上有効なバルコニーを設置された場合、階段を1つとする事ができます。
この時、避難上有効なバルコニーが使用されます。
法文を見てみよう
【建築基準法施行令第121条1項六号イ】
(2以上の直通階段を設ける場合)
第121 条 建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その階から避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設けなければならない。一~五 略
六 前各号に掲げる階以外の階で次のイ又はロに該当するもの
イ 6階以上の階でその階に居室を有するもの(第一号から第四号までに掲げる用途に供する階以外の階で、その階の居室の床面積
建築基準法施行令より引用
の合計が100㎡を超えず、かつ、その階に避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するもの及びその階から避難階又は地上に通ずる直通階段で第123 条第2項又は第3項の規定に適合するものが設けられているものを除く。)
2以上の直通階段の詳しい記事はこちらをご覧ください。
重複距離の免除(令121条3項)
2以上の直通階段の設置が必要な場合、各居室から2つの階段に至る重複距離は歩行距離の1/2以下としなければなりません。
この時、当該重複区間を経由せずに避難上有効なバルコニーに避難できる場合には重複距離の規定が免除されます。
重複距離の免除として使われますが「当該重複区間を経由せずに」というのが中々厄介です。
下の画像の様にスタート地点から他の方向に避難できるように設定しなくてはならないので注意が必要です。
法文を見てみよう
【建築基準法施行令第121条第3項】
(2以上の直通階段を設ける場合)
第121 条 建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その階から避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設けなければならない。一~六 略
2 略
3 第1項の規定により避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設ける場合において、居室の各部分から各直通階段に至る通常の歩行経路のすべてに共通の重複区間があるときにおける当該重複区間の長さは、前条に規定する歩行距離の数値の1/2をこえてはならない。ただし、居室の各部分から、当該重複区間を経由しないで、避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するものに避難することができる場合は、この限りでない。
建築基準法施行令より引用
木三共(平成27年2月23日 告示第255号)
木三共の要件として避難上有効なバルコニーが求められます。
計画によっては避難上有効なバルコニーをなしとする事も可能です。
避難上有効なバルコニーの構造
建築基準法における避難上有効なバルコニー
避難上有効なバルコニーの構造については建築基準法に記載がありません。
建築物の防火避難規定の解説 2023に避難上有効なバルコニーの構造が詳しく示されています。
要約すると以下のような構造です。
- バルコニーと直通階段の位置はおおむね対象の位置とする。
- 各居室から容易に連絡する位置とする。
- バルコニーの一面は道路又は75cm以上の敷地内通路に面する。
- 避難器具を設置し道路等まで安全に避難できること。
- バルコニーの奥行きは75cm以上、面積は2㎡以上とする。(避難ハッチの面積は除き2㎡)
- 共同住宅以外のバルコニーは2m以内にある開口部を防火設備とする。
- 出入口は幅75cm以上、高さ180cm以上、床面からの高さは15cm以下とする。
- バルコニーは十分外気に開放されていること。
- バルコニーの床は耐火構造、準耐火構造などとし構造耐力上安全なものであること。
※上記の構造とする事が望ましい。
※延焼ライン内に設置してもよい。
上記の様に建築基準法に記載されていない内容の取扱いが建築物の防火避難規定の解説 2023には数多く掲載されています。
設計、審査する上では必須の書籍ですよ。
木三共における避難上有効なバルコニー
木三共における避難上有効なバルコニーの構造については建築基準法に記載がありません。
木造建築物の防・耐火設計マニュアル: 大規模木造を中心としてに避難上有効なバルコニーの構造が詳しく示されています。
要約すると以下のような構造です。
- 出入口は幅75cm以上、高さ1.2m以上、床面からの高さは15cm以下とする。
- バルコニーの奥行きは75cm以上とする。
- 避難器具を設置し道路等まで安全に避難できること。
- バルコニーの面積は各居室の床面積の3/100以上かつ2㎡以上とする。
- バルコニーの床は耐火構造、準耐火構造などであること。
消防法における避難器具の種類
避難上有効なバルコニーに設置される避難器具について建築基準法に記載がありません。
消防法に避難器具の種類、建物用途や階によりどれを適用するかが決められているので、消防法に準ずることが多いです。
それらが表になっていてわかりやすいので私はいつも建築消防advice2023で確認しています。
避難器具の種類
- 滑り棒
- 避難ロープ
- 避難はしご
- 避難用タラップ
- すべり台
- 緩降機
- 避難橋
- 救助袋
避難上有効なバルコニーについてのケーススタディ
避難ハッチの向きは外向き、内向きどちらにすればいい?
ハッチの吊元を建物側とした場合、建物側を見ながら降下するので高層階からの降下時の恐怖感を軽減できます。
ハッチの吊元をベランダ側とした場合、建物側を背にして降下するので、もし降下時に落下してもベランダ内に落ちるためベランダ外に放り出される可能性が低くなります。
消防によっての考え方が異なりますので、事前に所管の消防署に確認しておきましょう。
2直免除の避難上有効なバルコニーは6階以上に設ければ5階以下の階にはなくてもよい?
例えば6階建てで、建築基準法上、6階に避難上有効なバルコニー+屋外避難階段が必要となるケースの場合
6階にのみ避難上有効なバルコニーを設ければ5階以下には設置しないという事も可能です。
ただし、6階から地上階まで安全に避難できる避難器具等を設置する必要があります。
避難上有効なバルコニーについての法改正遍歴、既存不適格
令121条において避難上有効なバルコニーという文言が初めて出てきたのは昭和44年5月1日です。(重複距離の緩和)
続いて6階以上の階の2以上の直通階段緩和のための避難上有効なバルコニーが出てきたのが昭和49年1月1日です。
その後、平成15年に改正があり現行法となっています。
施行当時と現行法とでほぼ内容は同じです。
ですので避難上有効なバルコニーに関する既存不適格はありません。
防火避難規定の解説が刊行される前だと当該要件に合っていない可能性はあります。
法改正遍歴、既存不適格を調べるには令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシートが非常に役立ちます。
まとめ
- 建築基準法において避難上有効なバルコニーが使われる場面は主に次の3つ
- 2以上の直通階段の免除(令121条1項六号イ)
- 重複距離の免除(令121条3項)
- 木三共(平成27年2月23日 告示第255号)
- 重複距離の免除については重複区間を経由しない事に注意が必要
- 避難上有効なバルコニーの構造は建築物の防火避難規定の解説2016(第2版)や木造建築物の防・耐火設計マニュアル: 大規模木造を中心としてに詳しい構造が示されている。
- 避難器具については消防法に規定するものに準ずることが多い。建築消防advice2023が参考になる