異種用途区画は、用途が混在する建築物内において、一方で火災があった場合に他方への火災情報が伝達されず避難の遅れが生じることから、特殊建築物の用途とその他の用途との境界部分を区画するものです。
令和2年には法改正によりホテル、旅館、児童福祉施設等、飲食店、物品販売業を営む店舗などで自動火災報知設備を設けた場合、一部異種用途区画を免除できるようになりました。(告示250号)
今回は異種用途区画の基本から区画の仕様、免除される条件、法改正遍歴などを解説します。
令112条の法文をチェック
建築基準法施行令(2024年版)より引用法文を見てみよう
建築基準法施行令
(防火区画)
第112条 1~17 略
18 建築物の一部が法第27 条第1項各号、第2項各号又は第3項各号のいずれかに該当する場合においては、その部分とその他の部分とを1時間準耐火基準に適合する準耐火構造とした床若しくは壁又は特定防火設備で区画しなければならない。ただし、国土交通大臣が定める基準に従い、警報設備を設けることその他これに準ずる措置が講じられている場合においては、この限りでない。
19 第1項、第4項、第5項、第10 項又は前項の規定による区画に用いる特定防火設備、第7項、第10 項、第11 項又は第12 項本文の規定による区画に用いる法第2条第九号の二ロに規定する防火設備、同項ただし書の規定による区画に用いる10 分間防火設備及び第13 項の規定による区画に用いる戸は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める構造のものとしなければならない。
一 第1項本文、第4項若しくは第5項の規定による区画に用いる特定防火設備又は第7項の規定による区画に用いる法第2条第九号の二ロに規定する防火設備 次に掲げる要件を満たすものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの
イ 常時閉鎖若しくは作動をした状態にあるか、又は随時閉鎖若しくは作動をできるものであること。
ロ 閉鎖又は作動をするに際して、当該特定防火設備又は防火設備の周囲の人の安全を確保することができるものであること。
ハ 居室から地上に通ずる主たる廊下、階段その他の通路の通行の用に供する部分に設けるものにあっては、閉鎖又は作動をした状態において避難上支障がないものであること。
ニ 常時閉鎖又は作動をした状態にあるもの以外のものにあっては、火災により煙が発生した場合又は火災により温度が急激に上昇した場合のいずれかの場合に、自動的に閉鎖又は作動をするものであること。
二 第1項第二号、第10 項若しくは前項の規定による区画に用いる特定防火設備、第10 項、第11 項若しくは第12 項本文の規定による区画に用いる法第2条第九号の二ロに規定する防火設備、同項ただし書の規定による区画に用いる10 分間防火設備又は第13 項の規定による区画に用いる戸 次に掲げる要件を満たすものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの
イ 前号イからハまでに掲げる要件を満たしているものであること。
ロ 避難上及び防火上支障のない遮煙性能を有し、かつ、常時閉鎖又は作動をした状態にあるもの以外のものにあっては、火災により煙が発生した場合に自動的に閉鎖又は作動をするものであること。
異種用途区画に関する法文を抜粋し、マーキングしました。
最新版の法令集をお求めの方はこちらの記事も参考にして下さい。
異種用途区画の基本的な考え方
建築物の一部に法27条第1項~第3項の各号に該当する用途がある場合はその用途とそれ以外の用途とを防火区画する必要があります。
法27条第1項~第3項の各号に該当する用途の部分は以下の通り。
対象となる用途の部分
- (1)~(4)に掲げる用途が3階以上にあるもの
- (1)に掲げる用途で客席の面積が200㎡以上あるもの(屋外観覧席は1000㎡以上)
- (2)に掲げる用途で2階の面積が300㎡以上あるもの(病院、診療所はその部分に収容施設がある場合)
- (3)に掲げる用途で面積が2000㎡以上あるもの
- (4)に掲げる用途で2階の面積が500㎡以上あるもの
- (4)に掲げる用途で面積が3000㎡以上あるもの
- 劇場、映画館、演芸場で主階が1階にないもの(階数が3以下で200㎡未満のものは除く)
- (5)に掲げる用途で3階以上の部分の面積が200㎡以上あるもの
- (6)に掲げる用途が3階以上にあるもの
- (5)に掲げる用途で面積が1500㎡以上あるもの
- (6)に掲げる用途で面積が150㎡以上あるもの
- 法別表第二(と)第四号に規定する危険物の貯蔵場又は処理場の用途
法別表第1(い) | 特殊建築物の種類 |
---|---|
(1) | 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場 |
(2) | 病院、診療所(患者の収容施設があるもの)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎、児童福祉施設等、幼保連携型認定こども園 |
(3) | 学校、体育館、博物館、美術館、図書館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツ練習場 |
(4) | 百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、待合、料理店、飲食店、物品販売業を営む店舗 |
(5) | 倉庫 |
(6) | 自動車車庫、自動車修理工場、映画スタジオ、テレビスタジオ |
以上の様に箇条書きにすると対象となるものが結構多くありますね。
階数によるものと面積によるものがあります。
対象となる事が多いのは3階以上に特殊建築物の用途がある場合です。
面積によって異種用途区画の対象となるものは見逃しがちなので要チェックです。
また、表にすると以下の通りです。
法別表第1(い) | 階数による制限 | 面積による制限 |
---|---|---|
(1) | ・3階以上 ・劇場、映画館、演芸場で主階が1階にないもの (階数が3以下で200㎡未満のものは除く) | 客席が200㎡以上(屋外観覧席は1000㎡以上) |
(2) | 3階以上 | 2階が300㎡以上(病院、診療所はその部分に収容施設がある場合) |
(3) | 3階以上 | 2000㎡以上 |
(4) | 3階以上 | ・2階が500㎡以上 ・3000㎡以上 |
(5) | - | ・3階以上の部分が200㎡以上 ・1500㎡以上 |
(6) | 3階以上 | 150㎡以上 |
区画が必要な部分
上記の対象となる用途の部分とその他の部分を異種用途区画する必要があります。
下図の様に全く同じ用途、規模であっても配置される階によって異種用途区画の要、不要が分かれる場合もあります。
また、異種用途区画するにあたって共用部分がある場合、どこで区画すればよいのでしょうか?
それは建築物の防火避難規定の解説 2023に取扱いが記載されています。
共用部分について異種用途区画の対象となる用途に含むことが望ましいとされています。
建築物の防火避難規定の解説より引用
区画の仕様
異種用途区画を構成する区画の仕様は以下の通りです。
- 壁、床は1時間準耐火構造(耐火建築物の場合は耐火構造)
- 開口部は常時閉鎖式又は随時閉鎖式の遮煙性能を有した特定防火設備
防火区画に用いる防火設備に関してはこちらの記事も参考にして下さい。
スパンドレルは不要
防火区画(面積区画、高層区画、竪穴区画、異種用途区画)の中で異種用途区画のみスパンドレルが不要です。
駐車場の区画について
昭和25年から平成30年の間は50㎡を超える駐車場は異種用途区画が必要でした。
平成30年に法24条が削除され小規模な異種用途区画がなくなりました。
現在は150㎡を超える駐車場に異種用途区画が必要となります。
都道府県、市区町村などの条例により50㎡に引き下げている自治体もありますのでご注意ください。
異種用途区画が免除される場合
令112条18項ただし書き(告示250号)による免除
対象となる用途
- ホテル
- 旅館
- 児童福祉施設等(通所のみにより利用されるものに限る)
- 飲食店
- 物品販売業を営む店舗
警報設備
- 自動火災報知設備
(自動火災報知設備の構造方法、設置方法の詳細については令和元年6月21日 国土交通省告示第198号による)
緩和される部分
- 同一階で隣接する他の用途との区画
緩和されない部分
- 直上階や直下階の他の用途とは区画が必要
- 病院、診療所、児童福祉施設等で就寝利用のある場合
建築知識2022年11月号 より引用
告示250号で緩和されるのは同一階で隣接する部分だけで、他の階との区画は免除されません。
また、就寝用途のある病院、診療所、児童福祉施設等などには適用できません。
管理者、利用者、利用時間が同一である場合の免除
デパートなどで3階以上の階に物品販売業を営む店舗と飲食店が複合している場合、原則として相互に区画が必要となります。
しかし、物品販売業を営む店舗の一角にある飲食店、食堂やホテルのレストランなど、下記の要件に該当する場合は異種用途区画が不要となります。
- 管理者が同一であること
- 利用者が一体施設として利用するものであること
- 利用時間がほぼ同一であること
- 自動車車庫、倉庫等以外の用途であること
こちらの取扱いは建築物の防火避難規定の解説 2023に掲載されています。
全館避難安全検証法による免除
全館避難安全検証法を適用した場合、異種用途区画は免除されます。
避難安全検証法には区画避難安全検証法、階避難安全検証法、全館避難安全検証法の3種類がありますが、異種用途区画が免除されるのは全館避難安全検証法のみです。
避難安全検証法の詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
異種用途区画はいつから?法改正遍歴
異種用途区画の規定(令112条18項)の規定が施行されたのは昭和25年11月23日です。
当時は令112条3項でした。
その後、昭和26年、昭和31年、昭和34年、昭和36年、昭和44年、昭和46年、平成5年、平成12年、平成27年、平成30年、令和2年に改正があり、現行の法文になっています。
重要な部分だけピックアップして紹介します。
条ズレについて
- 昭和31年7月1日施行 3項から5項に移動
- 昭和34年12月23日施行 5項から8項に移動
- 昭和39年1月15日施行 8項から11項に移動
- 昭和44年5月1日施行 11項から12項に移動
- 昭和46年1月1日施行 12項から13項に移動
- 平成30年9月25日施行 13項から12項に移動
- 令和元年6月25日施行 12項から17項に移動
- 令和2年4月1日施行 17項から18項に移動(現在に至る)
昭和46年1月1日施行
法別表第一に政令に定める用途(令115条の3)が追加されました。
平成30年9月25日施行
法24条が削除されたことに伴い、小規模な異種用途区画がなくなりました。
法改正遍歴、既存不適格を調べるには令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシートが非常に役立ちます。
まとめ
- 異種用途区画は法27条第1項~第3項の各号に該当する用途がある場合、当該部分とその他の部分に区画が必要となる。
- 異種用途区画するにあたって共用部分は異種用途区画の対象となる用途に含むことが望ましい。
- 異種用途区画の構造は以下の通り
- 壁、床は1時間準耐火構造(耐火建築物の場合は耐火構造)
- 開口部は常時閉鎖式又は随時閉鎖式の遮煙性能を有した特定防火設備
- 異種用途区画はスパンドレルが不要。
- 平成30年に小規模な異種用途区画(駐車場50㎡など)は無くなった。
- 告示250号の緩和は以下の通り
- 対象用途はホテル、旅館、児童福祉施設等(通所のみにより利用されるものに限る)、飲食店、物品販売業を営む店舗
- 自動火災報知設備を設ける
- 同一階で隣接する部分が免除される
- 物品販売業を営む店舗の一角にある飲食店、食堂やホテルのレストランなど以下の条件に当てはまる場合免除される
- 管理者が同一であること
- 利用者が一体施設として利用するものであること
- 利用時間がほぼ同一であること
- 自動車車庫、倉庫等以外の用途であること
- 全館避難安全検証法を適用した場合、異種用途区画は免除される。
- 異種用途区画の規定(令112条18項)の規定が施行されたのは昭和25年11月23日。
本記事の作成にあたり参考にした条文、書籍等
- 建築基準法施行令第112条(防火区画)
- 建築基準法 法別表第一
- 令和2年告示第250号(警報設備を設けることその他これに準ずる措置の基準を定める件)
- 令和元年告示第198号(警報設備の構造方法及び設置方法を定める件)
- 建築物の防火避難規定の解説 2023
- 建築知識2022年11月号
- 令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシート