『2以上の直通階段』を知るには、まず直通階段とは何かを理解しなければなりません。
直通階段が必要となる建築物の条件、注意点、免除される条件などを解説します。
その上で『2以上の直通階段』が必要となる建築物の条件、免除規定(避難上有効なバルコニー+屋外避難階段の2直緩和)などを解説します。
2以上の直通階段とは?
2以上の直通階段とは建物の用途、階数、面積などにより規模の大きな建築物には階段を複数設けて、避難動線を短くし地上に短時間で避難できるための規定です。
2以上の直通階段は『2直』と略して呼ばれます。
本記事では2以上の直通階段の設置基準、直通階段とは何か?、2直の設置基準、2直免除、法改正遍歴などについてわかりやすく解説します。
まずは直通階段について解説していきます。
まず直通階段とは何か?
まずは令120条の法文をチェック
(適用の範囲)
第117 条 この節の規定は、法別表第1(い)欄⑴項から⑷項までに掲げる用途に供する特殊建築物、階数が3以上である建築物、前条第1項第一号に該当する窓その他の開口部を有しない居室を有する階又は延べ面積が1,000㎡をこえる建築物に限り適用する。2 次に掲げる建築物の部分は、この節の規定の適用については、それぞれ別の建築物とみなす。
一 建築物が開口部のない耐火構造の床又は壁で区画されている場合における当該床又は壁により分離された部分
二 建築物の2以上の部分の構造が通常の火災時において相互に火熱又は煙若しくはガスによる防火上有害な影響を及ぼさないものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものである場合における当該部分
(直通階段の設置)
第120 条 建築物の避難階以外の階(地下街におけるものを除く。次条第1項において同じ。)においては、避難階又は地上に通ずる直通階段(傾斜路を含む。以下同じ。)を次の表の左欄に掲げる居室の種類の区分に応じ当該各居室からその一に至る歩行距離が同表の中欄又は右欄に掲げる場合の区分に応じそれぞれ同表の中欄又は右欄に掲げる数値以下となるように設けなければならない。
居室の種類 主要構造部が準耐火構造である場合(特定主要構造部が耐火構造である場合を含む。)又は主要構造部が不燃材料で造られている場合(単位 m) 左欄に掲げる場合以外の場合(単位 m) (1) 第116条の2第1項第一号に該当する窓その他の開口部を有しない居室(当該居室の床面積、当該居室からの避難の用に供する廊下その他の通路の構造並びに消火設備、排煙設備、非常用の照明装置及び警報設備の設置の状況及び構造に関し避難上支障がないものとして国土交通大臣が定める基準に適合するものを除く。)又は法別表第1(い)欄⑷項に掲げる用途に供する特殊建築物の主たる用途に供する居室 30 30 (2) 法別表第1(い)欄⑵項に掲げる用途に供する特殊建築物の主たる用途に供する居室 50 30 (3) ⑴の項又は⑵の項に掲げる居室以外の居室 50 40 2 主要構造部が準耐火構造である建築物(特定主要構造部が耐火構造である建築物を含む。次条第2項及び第122条第1項において同じ。)又は主要構造部が不燃材料で造られている建築物の居室で、当該居室及びこれから地上に通ずる主たる廊下、階段その他の通路の壁(床面からの高さが1.2 m以下の部分を除く。)及び天井(天井のない場合においては、屋根)の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。)の仕上げを準不燃材料でしたものについては、前項の表の数値に10 を加えた数値を同項の表の数値とする。ただし、15 階以上の階の居室については、この限りでない。
3 15 階以上の階の居室については、前項本文の規定に該当するものを除き、第1項の表の数値から10 を減じた数値を同項の表の数値とする。
4 第1項の規定は、主要構造部を準耐火構造とした共同住宅(特定主要構造部を耐火構造とした共同住宅を含む。第123条の2において同じ。)の住戸でその階数が2又は3であり、かつ、出入口が一の階のみにあるものの当該出入口のある階以外の階については、その居室の各部分から避難階又は地上に通ずる直通階段の一に至る歩行距離が40 m以下である場合においては、適用しない。
建築基準法法令集 2025年版(令和7年版)より抜粋
最新版の法令集は下記の記事を参考にして下さい。
適用の範囲が令117条で定められている
今回解説する令120条(直通階段の設置)、令121条(2以上の直通階段)の規定は令117条で定められている範囲が対象となります。
この節の規定とは『第5章 避難施設等』の『第2節 廊下、避難階段及び出入口』を示し、法文で言うと令117条から令126条までです。
対象となる建築物、建築物の部分は以下の通りです。
- 法別表第1(い)欄(1)から(4)までに掲げる用途に供する特殊建築物
- 階数が3以上である建築物
- 採光無窓の居室を有する階
- 延べ面積が1000㎡を超える建築物
以上の建築物、建築物の部分に直通階段が必要となります。
逆に言うと上記に当てはまらない、例えば2階建ての一戸建ての住宅などは直通階段を求められないので法的には階段を設ける必要はありません。
使い勝手の上でほとんどの場合、階段を設けますけどね。
令120条は歩行距離の規定
令120条の表題は(直通階段の設置)となっていますが、法文上はほぼ歩行距離の規定です。
歩行距離の規定が満たされた位置に直通階段を設けるという法文になっています。
直通階段は直通しなくてはならない
直通階段は読んで字のごとく避難階まで『直通』しなくてはなりません。
そのため、階段の途中に扉があったり、次の階へ通ずる階段の位置が離れていて連続性に欠けるものなどは直通階段に該当しません。
こちらの取扱いは建築物の防火避難規定の解説 2023に掲載されていますのでご参照ください。
建築物の防火避難規定の解説より引用
一戸建ての住宅にも直通階段は必要?
3階建ての一戸建ての住宅にも原則として直通階段が必要となります。
ただ、一戸建ての住宅の場合は利用者が特定されており、日常的に使用されている階段なので避難経路を誤認する可能性は低いと考えられます。
よって、住宅については下記の通り、一部、合理的に判断される場合がありますので例を示します。
玄関が2階にある場合
1階が車庫などで2階に玄関がある場合、3階から避難階に通ずる階段の途中に玄関扉があり、通常直通階段に該当しません。
このような場合は避難上支障がないと判断され階段の途中に扉を設けてもよいとなるケースもあります。
ガラス戸を設置し見通しを確保
狭小敷地の3階建ての一戸建ての住宅などで居室と階段が一体となっており、冷暖房などの観点から階段に扉を設けたいという要望が多くあります。
途中に戸を設けてもガラス戸などで見通しが効き、単純な避難動線の場合は避難上支障がないと判断され階段の途中に扉を設けてもよいとなるケースもあります。
いずれも申請先の確認検査機関又は特定行政庁の判断となりますのでこれらを適用する際は申請先にお問合せ下さい。
2以上の直通階段の設置基準
まずは令121条をチェック
(2以上の直通階段を設ける場合)
第121 条 建築物の避難階以外の階が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その階から避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設けなければならない。
一 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂又は集会場の用途に供する階でその階に客席、集会室その他これらに類するものを有するもの二 物品販売業を営む店舗(床面積の合計が1,500㎡を超えるものに限る。第122 条第2項、第124 条第1項及び第125 条第3項において同じ。)の用途に供する階でその階に売場を有するもの
三 次に掲げる用途に供する階でその階に客席、客室その他これらに類するものを有するもの(5階以下の階で、その階の居室の床面積の合計が100㎡を超えず、かつ、その階に避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するもの及びその階から避難階又は地上に通ずる直通階段で第123 条第2項又は第3項の規定に適合するものが設けられているもの並びに避難階の直上階又は直下階である5階以下の階でその階の居室の床面積の合計が100㎡を超えないものを除く。)
イ キャバレー、カフェー、ナイトクラブ又はバーロ 個室付浴場業その他客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業を営む施設
ハ ヌードスタジオその他これに類する興行場(劇場、映画館又は演芸場に該当するものを除く。)
ニ 専ら異性を同伴する客の休憩の用に供する施設
ホ 店舗型電話異性紹介営業その他これに類する営業を営む店舗
四 病院若しくは診療所の用途に供する階でその階における病室の床面積の合計又は児童福祉施設等の用途に供する階でその階における児童福祉施設等の主たる用途に供する居室の床面積の合計が、それぞれ50㎡を超えるもの
五 ホテル、旅館若しくは下宿の用途に供する階でその階における宿泊室の床面積の合計、共同住宅の用途に供する階でその階における居室の床面積の合計又は寄宿舎の用途に供する階でその階における寝室の床面積の合計が、それぞれ100㎡を超えるもの
六 前各号に掲げる階以外の階で次のイ又はロに該当するもの
イ 6階以上の階でその階に居室を有するもの(第一号から第四号までに掲げる用途に供する階以外の階で、その階の居室の床面積の合計が100㎡を超えず、かつ、その階に避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するもの及びその階から避難階又は地上に通ずる直通階段で第123 条第2項又は第3項の規定に適合するものが設けられているものを除く。)
ロ 5階以下の階でその階における居室の床面積の合計が避難階の直上階にあっては200㎡を、その他の階にあっては100㎡を超えるもの
2 主要構造部が準耐火構造であるか、又は主要構造部が不燃材料で造られている建築物について前項の規定を適用する場合には、同項中「50㎡」とあるのは「100㎡」と、「100㎡」とあるのは「200㎡」と、「200㎡」とあるのは「400㎡」とする。
3~4 略
建築基準法法令集 2025年版(令和7年版)より抜粋
2以上の直通階段の設置基準として
- 用途と面積によるもの(一号~五号)
- 階数と面積によるもの(六号)
とに分類されます。
まずは用途上、2直が必要かどうか判断して、その後階数上、2直が必要かどうか判断するという流れになります。
用途と面積により2以上の直通階段が必要になる場合
令121条第1項 | 用途 | 対象階 | 面積 (耐火、準耐火建築物は( )内の面積) |
---|---|---|---|
一号 | 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場 | 客席、集会室等のある階 | 規模に関係なく全部に適用 |
二号 | 物品販売業を営む店舗(床面積1500㎡以上) | 売場のある階 | 規模に関係なく全部に適用 |
三号 | キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー 個室付浴場業等の営業施設 ヌードスタジオ等の興行場(劇場等を除く) 専ら異性を同伴する客の休憩施設 店舗型電話異性紹介営業等の営業店舗 | 客席、客室等のある階 | 原則として全部に適用 (5階以下の階については緩和規定あり) |
四号 | 病院、診療所、児童福祉施設等(幼保連携型認定こども園含む) | 病室、主たる用途に供する居室のある階 | 50㎡(100㎡) |
五号 | ホテル、旅館、共同住宅、下宿、寄宿舎 | 宿泊室、居室、寝室のある階 | 100㎡(200㎡) |
上の表のように建築物の用途、面積に応じて対象階からの2以上の直通階段が必要になります。
耐火建築物、準耐火建築物は倍読みとなりカッコ内の面積となります。
階数と面積により2以上の直通階段が必要になる場合
令121条第1項 | 階数 | 対象階 | 面積 (耐火、準耐火建築物は( )内の面積) |
---|---|---|---|
六号イ | 6階以上の階 | 居室のある階 | 原則として全部に適用 (屋外避難階段又は特別避難階段と避難上有効なバルコニーを設けた場合には緩和規定あり。※一号~四号は適用不可) |
六号ロ | 避難階の直上階 | 居室のある階 | 200㎡(400㎡) |
六号ロ | 5階以下の階、地階 | 居室のある階 | 100㎡(200㎡) |
上の表のように建築物の階数、面積に応じて対象階からの2以上の直通階段が必要になります。
耐火建築物、準耐火建築物は倍読みとなりカッコ内の面積となります。
また、令121条第1項一号~四号に掲げる用途の場合は屋外避難階段+避難上有効なバルコニーによる緩和を適用する事ができません。
四号の病院、診療所、児童福祉施設等は50㎡(100㎡)の面積に関わらず適用する事ができませんので注意が必要です。
6階以上の階に居室を有する建築物の2直免除は『屋外避難階段+避難上有効なバルコニー』
6階以上の階に居室を設ける場合は面積に関わらず2以上の直通階段が必要になりますが、以下の3点を満たした時には階段を1つにする事ができます。
- 屋外避難階段 or 特別避難階段 を設置
- 避難上有効なバルコニーを設置
- 6階以上の居室の床面積が200㎡以下
居室の面積が200㎡以下という制約があるため、狭小敷地での高層の建築物への適用が多く、特別避難階段ではなく屋外避難階段が採用されます。
よって、必然的に屋外避難階段+避難上有効なバルコニーのセットとなります。
屋外避難階段、避難上有効なバルコニーについての詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。
共同住宅のメゾネット住戸の緩和
まずは令123条の2の法文をチェック
(共同住宅の住戸の床面積の算定等)
建築基準法法令集 2025年版(令和7年版)より抜粋
第123 条の2 主要構造部を準耐火構造とした共同住宅の住戸でその階数が2又は3であり、かつ、出入口が一の階のみにあるものの当該出入口のある階以外の階は、その居室の各部分から避難階又は地上に通ずる直通階段の一に至る歩行距離が40 m以下である場合においては、第119 条、第121 条第1項第五号及び第六号イ(これらの規定を同条第2項の規定により読み替える場合を含む。)、第122 条第1項並びに前条第3項第十二号の規定の適用については、当該出入口のある階にあるものとみなす。
共同住宅のメゾネット住戸に関しては一定の条件を元に2以上の直通階段の設置を免除することができます。
通常、6階に居室を有する建築物の場合、令121条第1項六号イにより2以上の直通階段(又は屋外避難階段+避難上有効なバルコニー)を設置する必要がありますが、メゾネット住戸で下記の条件を満たすものは令121条の規定上5階建てとみなされます。
- メゾネット住戸の階数は3以下
- 出入口が5階のみにある
- 歩行距離が40m以下
法改正遍歴、既存不適格など
2以上の直通階段の規定(令121条)が施行されたのは昭和25年11月23日です。(建築基準法の施行と同時)
その後、昭和31年、昭和34年、昭和44年、昭和46年、昭和49年、平成5年、平成12年、平成15年、令和2年、令和6年に改正があり、現行の法文になっています。
重要な部分だけピックアップして紹介します。
昭和46年1月1日施行
令121条第1項一号に1500㎡を超える物品販売業を営む店舗が追加されました。
昭和49年1月1日施行
令121条第1項二号にキャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バーなどが追加されました。
令121条第1項三号に児童福祉施設等が追加されました。
令121条第1項五号に現行法の六号(階数+面積による2以上の直通階段の設置)の規定が追加されました。
平成15年7月1日施行
1500㎡を超える物品販売業を営む店舗が令121条第1項一号から二号にズレて、二号~五号がそれぞれ三号~六号にスライドしました。
令121条第1項三号にイ~ホが追加され、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バーがイとなり、ロ~ホが新設されました。
既存不適格について
1500㎡を超える物品販売業を営む店舗、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バーなど、児童福祉施設等などは法改正により2以上の直通階段の設置が必要となりましたので既存不適格の可能性があります。
また、用途にかかわらず階数+面積で2以上の直通階段を求められるようになったのは昭和49年からですので、それ以前の建築物については既存不適格の可能性があります。
法改正遍歴、既存不適格を調べるには令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシートが非常に役立ちます。
まとめ
- 直通階の必要な建築物、建築物の部分は
- 法別表第1(い)欄(1)から(4)までに掲げる用途に供する特殊建築物
- 階数が3以上である建築物
- 採光無窓の居室を有する階
- 延べ面積が1000㎡を超える建築物
- 直通階段は避難階まで直通する必要がある。
- 連続性の欠けるものや途中に扉を設けると直通階段にならない。
- 一戸建ての住宅は利用者が特定されており、避難経路を誤認する可能性は低いので弾力的に判断されるケースがある。
- 2以上の直通階段は用途+面積によるもの階数+面積によるものがある。
- 6階以上に居室を有する場合は屋外避難階段+避難上有効なバルコニーにより階段を1つにする事ができる。
- メゾネット住戸で下記の条件を満たすものは令121条の規定上5階建てとみなされる。
- メゾネット住戸の階数は3以下
- 出入口が5階のみにある
- 歩行距離が40m以下
- 1500㎡を超える物品販売業を営む店舗、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バーなど、児童福祉施設等などは既存不適格の可能性がある。
- 階数+面積で2以上の直通階段を求められる規定にかかる規模で昭和49年以前の建築物については既存不適格の可能性がある。
本記事の作成にあたり参考にした条文、書籍等
- 建築基準法施行令第117条(適用の範囲)
- 建築基準法施行令第120条(直通階段の設置)
- 建築物の防火避難規定の解説2016(第2版)
- 建築基準法施行令第121条(2以上の直通階段を設ける場合)
- 建築基準法施行令第123条の2(共同住宅の住戸の床面積の算定等)
- 令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシート