住宅や学校、病院などには採光が必要だけど
事務所、店舗など採光が必要ない建築物には非常用照明を設ければ採光の検討は不要ですよね?
いいえ、事務所や店舗など、1/5、1/7、1/10の割合の採光が必要の無い居室も1/20の検討が必要です。
なぜかと言うと1/20の採光の検討(採光無窓かどうかの検討)を行わない場合は、採光上の無窓居室とみなされます。
採光上の無窓居室は防火・避難規定が強化されます。
非常用照明の設置もその一つですがそれだけではありません。
特に厄介なのが法35条の3です。この条文は短いながらも多くの制約があります。
設計者と審査者の間で認識に温度差が生じやすい規定であると思います。
今回の記事では、この法35条の3についてどういったものなのか、パブリックコメントで明確化された内容、法改正の緩和(告示249号)についても解説していきます。
まずは法35条の3とその関連条文をチェック
法文を見てみよう
建築基準法 第35条の3
(無窓の居室等の主要構造部)
第35 条の3 政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、その居室を区画する主要構造部を耐火構造とし、又は不燃材料で造らなければならない。ただし、別表第1い欄⑴項に掲げる用途に供するものについては、この限りでない。建築基準法施行令 第111条
(窓その他の開口部を有しない居室等)
第111 条 法第35 条の3(法第87 条第3項において準用する場合を含む。)の規定により政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、次の各号のいずれかに該当する窓その他の開口部を有しない居室(避難階又は避難階の直上階若しくは直下階の居室その他の居室であって、当該居室の床面積、当該居室からの避難の用に供する廊下その他の通路の構造並びに消火設備、排煙設備、非常用の照明装置及び警報設備の設置の状況及び構造に関し避難上支障がないものとして国土交通大臣が定める基準に適合するものを除く。)とする。一 面積(第20 条の規定により計算した採光に有効な部分の面積に限る。)の合計が、当該居室の床面積の1/20以上のもの
二 直接外気に接する避難上有効な構造のもので、かつ、その大きさが直径1m以上の円が内接することができるもの又はその幅及び高さが、それぞれ、75㎝以上及び1.2 m以上のもの
2 ふすま、障子その他随時開放することができるもので仕切られた2室は、前項の規定の適用については、1室とみなす。
採光無窓居室とは?
原則として住宅、学校、病院、診療所、寄宿舎、下宿、その他これらに類する建築物の居室、教室、病室などには床面積の1/5、1/7、1/10の割合で、自然光を取り入れるための窓を設けなければなりません。
それ以外の居室には1/5、1/7、1/10の割合の採光窓は求められませんが、採光上無窓かどうかの検討を行う必要があります。
採光上無窓かどうかの検討が1/20の割合の採光計算などです。
採光無窓の居室は窓を有する居室に比べ、火災の『覚知』が遅れる事、避難活動・救助活動が困難になる事から、防火・避難規定が通常より強化されます。
採光上無窓かどうかの検討とは?
採光上無窓かどうかの検討を行う規定は実は2つあります。
『令111条第1項一号、二号』と『令116条の2第1項一号』です。
それぞれ検討方法と強化される規定が異なります。
令111条
検討方法
- 告示第249号に適合するもの(1項カッコ書き)
- 居室の床面積の1/20以上の採光を有する(採光補正係数を考慮)(1項一号)
- 直接外気に接する避難上有効な窓、開口部を有する(直径1m以上の円が内接or幅75㎝以上、高さ1.2 m以上のもの)(1項二号)
無窓の場合、強化される規定
- その居室を区画する主要構造部を耐火構造、または不燃材料で造る(法35条の3)
告示第249号、法35条の3の規定
今回の記事はこちらのお話です。
令116条の2
検討方法
- 居室の床面積の1/20以上の採光を有する(採光補正係数を考慮)(1項一号)
無窓の場合、強化される規定
- 歩行距離(令120条)
- 非常用照明(令126条の4)など
法35条の3を読み解いてみよう
第35 条の3 政令で定める窓その他の開口部を有しない居室は、その居室を区画する主要構造部を耐火構造とし、又は不燃材料で造らなければならない。ただし、別表第1い欄⑴項に掲げる用途に供するものについては、この限りでない。
まず、『政令で定める窓その他の開口部を有しない居室』=『令111条の一号(採光上有効な開口部)、二号(避難上有効な開口部)がいずれもない居室』です。
令111条
- 採光上有効な開口部 居室の床面積の1/20以上の採光を有する(採光補正係数を考慮)
- 避難上有効な開口部 直接外気に接する避難上有効な窓、開口部を有する(直径1m以上の円が内接or幅75㎝以上、高さ1.2 m以上のもの)
※ ふすま、障子等で仕切られた2室は、1室とみなす。
上記の開口部を有しない居室は『その居室を区画する主要構造部を耐火構造とし、又は不燃材料で造らなければならない。』とあります。
- その居室を区画する主要構造部を耐火構造
- 又は不燃材料で造る
除外される用途
法別表第一(い)欄(1)項の用途(劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場)は用途上、無窓とする事がやむを得ない用途なので除外されています。
主要構造部を耐火構造、不燃材料って?
主要構造部を耐火構造、不燃材料って
建物自体を耐火建築物や準耐火建築物(ロ準耐)にすればよいという事?
確かに主要構造部を耐火構造や不燃材料と言われると耐火建築物やロ準耐を思い浮かべてしまいますね。
しかし、建物自体の話ではなく居室の話です。
これは告示249号が施行される際のパブリックコメントで明確化されています。
令和元年10月25日~11月23日実施「建築基準法施行令の一部を改正する政令案に関する意見募集の結果について」
令和元年10月25日~11月23日実施「建築基準法施行令の一部を改正する政令案に関する意見募集の結果について」より引用
主な意見等 国土交通省の考え方 法第35条の3の規定は「耐火構造とし、又は不燃材料で…」となっているが、他の条項、例えば令第120条(直通階段の規定)においては、「主要構造部が準耐火構造であるか又は不燃材料で造られている場合」とあり、平成5年の準耐火構造が規定される改正前は、「耐火構造であるか又は不燃材料で…」になっていた。他の条文との整合性を図る観点からも、法第35条の3においても、「準耐火構造」の適用ができるよう適切な改正の対応措置をされたい。 当該規定では、窓その他の開口部を有しない居室の火災安全性確保のために、当該居室が火災時に倒壊しないよう防火性能が高い耐火構造等の壁や床によって区画することを求めています。それぞれの条項の規制の趣旨に応じて、主要構造部に求める性能を規定しております。なお、今回の改正案は、窓その他の開口部を有しない居室のうち、避難上支障がないものとして告示で定める基準に適合するものについては法第35条の3の規制適用対象から除き、合理化を図ろうとするものです。
こちらのパブリックコメントにあるように
令120条などは建築物の耐火種別の事を言っていますが、それとは違い法35条の3は無窓居室に対し防火性能を高める規制をしていると言っています。
つまり、建物自体の話ではなく居室の話という事になります。
壁と天井の内装を不燃材料にすればよい?
一部屋だけ耐火構造で区画するのは難しいので
壁と天井の内装を不燃材料にすればよいのかな?
今までは曖昧であったのでそれでも良いという意見もありました。
しかし、これもパブリックコメントにより明確化されました。
令和元年10月25日~11月23日実施「建築基準法施行令の一部を改正する政令案に関する意見募集の結果について」
令和元年10月25日~11月23日実施「建築基準法施行令の一部を改正する政令案に関する意見募集の結果について」より引用
主な意見等 国土交通省の考え方 法35条の3の規定では、「居室を区画する主要構造部」となっているため、主要構造部である壁(間仕切り壁)については、主要構造部である床等まで立ち上げる必要があると思う。その一方で共同住宅等の界壁及び防火上主要な間仕切り壁については、強化天井を設けることによって小屋裏(天井裏)まで達する必要が無いと改正されたが、法35条の3の規定においても、規定上の性能が確保できる天井材の仕様の記述を望む。 法35条の3においては、窓その他の開口部を有しない居室を区画する主要構造部を耐火構造とする又は不燃材料で造ることを求めており、これは当該室の在室者が避難をするまでの間に当該室が火災により倒壊することを防止するための規制であることから、防火性能が高く火災時に倒壊しない耐火構造等の壁や床によって区画することを求めており、天井の防火性能を高めることにによって当該規定へ適合させることはできません。
天井は主要構造部では無いので天井で区画する事は認められません。
床から床(スラブからスラブ)までで区画しなくてはなりません。
区画貫通処理は必要?
令112条の防火区画じゃないので区画貫通処理はなしでいいんですよね?
いいえ、区画貫通処理(FDの設置)は必要です。
こちらの内容は建築設備設計・施工上の運用指針 2024年版のQ&Aに明確化されています。
「建築設備設計・施工上の運用指針 2019年版」 質問への回答 (令和4年3月31日時点)より引用
壁を配管やダクトが貫通する場合は令112条の区画貫通処理が必要とあります。
屋内との開口部の仕様は?
区画貫通処理が必要という事は扉は防火設備にしないといけないのかな?
開口部の仕様は明確化されていません。
ただ、バランスを考えると耐火構造の床、壁で区画する場合は防火設備
不燃材料で区画する場合は不燃扉とするのが良いと考えられます。
このように法35条の3の無窓居室があると主要構造部の区画が求められ結構大変です。
これを緩和できるのが令和2年に施行された告示249号です。
次からは告示249号について解説していきます。
告示249号の解説
告示を見てみよう
令和2年3月6日 国土交通省告示第249号
主要構造部を耐火構造等とすることを要しない避難上支障がない居室の基準を定める件
建築基準法施行令(以下「令」という。)第百十一条第一項に規定する避難上支障がない居室の基準は、次の各号のいずれかに掲げるものとする。
一 次のイからハまでのいずれか及び第二号ヘに該当すること。
イ 床面積が三十平方メートル以内の居室(寝室、宿直室その他の人の就寝の用に供するものを除く。以下この号において同じ。)であること。
ロ 避難階の居室で、当該居室の各部分から当該階における屋外への出口の一に至る歩行距離が三十メートル以下のものであること。
ハ 避難階の直上階又は直下階の居室で、当該居室の各部分から避難階における屋外への出口又は令第百二十三条第二項に規定する屋外に設ける避難階段に通ずる出入口の一に至る歩行距離が二十メートル以下のものであること。
二 次のいずれにも該当するものであること。
イ~ホ 略
ヘ 令第百十条の五に規定する基準に従って警報設備(自動火災報知設備に限る。)を設けた建築物の居室であること。
告示249号に適合している無窓居室は、法35条の3の規定を免除することができます。
一号に適合させる場合と二号に適合させる場合と2種類の方法がありますが、一般的には一号が利用されます。
ちなみに、二号は当該居室から避難する廊下、階段までの経路に一定の防火区画が必要であったり、スプリンクラー設備等を設置したり、避難検証法の検証を行うなど、適用にはハードルが高く、あまり採用されないので説明は割愛します。
告示249号第一号の条件
用途
就寝利用する居室(寝室、宿直室等)は緩和適用対象外
床面積、歩行距離
対象の階 | 床面積、歩行距離等の条件 |
---|---|
全ての階 | 床面積が30㎡以下 |
避難階 | 当該居室の各部分から屋外の出口まで歩行距離が30m以下 |
避難階の直上階又は直下階 | 当該居室の各部分から ・避難階の屋外の出口 ・屋外避難階段への出口 まで歩行距離が20m以下 |
※ ふすま、障子等で仕切られた2室は、1室とみなす。
警報設備
令110条の5に規定する自動火災報知設備を設置
自火報の設置が必要なので、消防法で自火報が必要とならない小規模な建築物にはハードルが高いのが難点です。
採光無窓居室の規定(法35条の3)の法改正遍歴について
採光無窓居室の規定(法35条の3)が施行されたのは昭和34年12月23日です。
その後、昭和46年に改正があり、現行の法文になっています。
施行当時からほぼ変わっていません。
そして、法35条の3の規定による『窓その他の開口部を有しない居室』を定める令111条が施行されたのは昭和46年1月1日です。
その後、平成12年、令和2年、令和5年に改正があり、現行の法文になっています。
重要な部分だけピックアップして紹介します。
令和2年4月1日施行
告示第249号が施行され、一定の無窓居室の緩和ができました。
法改正遍歴、既存不適格を調べるには令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシートが非常に役立ちます。
まとめ
- 1/5、1/7、1/10の割合の採光窓が必要の無い居室は採光上無窓で無いかの検討が必要。
- 採光上無窓かどうかの検討を行う規定は2つあり、それぞれ検討方法と強化規定が異なる。
- 令111条
- 告示第249号に適合するもの(1項カッコ書き)
- 居室の床面積の1/20以上の採光を有する(採光補正係数を考慮)(1項一号)
- 直接外気に接する避難上有効な窓、開口部を有する(直径1m以上の円が内接or幅75㎝以上、高さ1.2 m以上のもの)(1項二号)
- 令116条の2
- 居室の床面積の1/20以上の採光を有する(採光補正係数を考慮)(1項一号)
- 令111条の採光上有効な開口部、避難上有効な開口部を有しない居室はその居室を区画する主要構造部を耐火構造とし、又は不燃材料で造らなければならない。
- パブリックコメントにより以下が明確化。
- 建物自体の話ではなく居室の話という事。
- 天井は主要構造部でないので床から床(スラブからスラブ)までで区画が必要という事。
- 建築設備設計・施工上の運用指針 2024年版のQ&Aにより以下が明確化。
- 壁を貫通する配管やダクトにはFD(防火ダンパー)が必要。
- 告示249号一号適用の条件
- 就寝利用する居室(寝室、宿直室等)は緩和適用対象外
- 床面積30㎡以内の居室
- 避難階は屋外の出口まで歩行距離が30m以下
- 避難階の直上直下階は避難階の屋外の出口、屋外避難階段への出口まで歩行距離が20m以下
- 自動火災報知設備を設置
- 就寝利用する居室(寝室、宿直室等)は緩和適用対象外
- 採光無窓居室の規定(法35条の3)が施行されたのは昭和34年12月23日。
本記事の作成にあたり参考にした条文、書籍等
- 法35条の3(無窓の居室等の主要構造部)
- 令111 条(窓その他の開口部を有しない居室等)
- 令116条の2(窓その他の開口部を有しない居室等)
- 法別表第一
- 令和2年3月6日 国土交通省告示第249号(主要構造部を耐火構造等とすることを要しない避難上支障がない居室の基準を定める件)
- パブリックコメント(令和元年10月25日~11月23日実施「建築基準法施行令の一部を改正する政令案に関する意見募集の結果について」)
- 建築設備設計・施工上の運用指針 2024年版
- 令和改訂版 建築確認申請条文改正経過スーパーチェックシート