法改正の概要
脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律
令和4年6月17日に公布された『脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)』により3回に分けて段階的に法改正が行われます。
第1段階目は令和4年6月17日から1年以内に施行(令和5年4月1日に施行されました)
第2段階目は令和4年6月17日から2年以内に施行(令和6年4月1日に施行予定)
第3段階目は令和4年6月17日から3年以内に施行(令和7年4月1日に施行予定)
というスケジュールになります。
『脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律』って建築基準法と関係あるの?
確かに建築基準法には関係なさそうな名前ですが、主に省エネ法、建築基準法を改正する法律です。
建築基準法施行令の一部を改正する政令
『建築基準法施行令の一部を改正する政令』が令和5年2月10日に公布され、こちらも上記と同様、令和5年4月1日に施行されました。
1年施行もの 住宅の採光1/10緩和など
2023年(令和5年)4月1日に施行されました。
住宅の採光規定が1/7から1/10に緩和されました
【建築基準法第28条第1項】
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
住宅の採光に必要な窓の大きさは室面積×1/7 | 床面で50ルックス以上の照明を設けた場合、1/7が1/10に緩和される |
近年、巣ごもり需要の拡大、テレワーク化、既存ストックの活用などにより住宅への用途変更のニーズが増えています。
しかし、採光規定がネックとなり用途変更の支障となる事例が発生していました。
また、照明、換気、冷暖房設備などの発展により窓からの自然光に頼らずとも衛生的な室内環境を確保できる様になった事などから採光の規定が緩和されました。
床面の照度が50ルックス以上確保できる照明設備を設けた場合、住宅の採光に必要な窓の割合が1/7から1/10に緩和されます。
既存ストックの活用を考慮し、用途変更をしやすくするための改正ですが、新築の場合にも適用可能です。
告示1800号に緩和の規定が記載されています。
告示を見てみよう
建築基準法施行令第十九条第三項ただし書の規定に基づく照明設備の設置、有効な採光方法の確保その他これらに準ずる措置の基準及び居室の窓その他の開口部で採光に有効な部分の面積のその床面積に対する割合で国土交通大臣が別に定めるもの
昭和55年12月1日 建設省告示1800号
第1 照明設備の設置、有効な採光方法の確保その他これらに準ずる措置の基準
建築基準法告示より引用
一~三 (略)
四 住宅の居住のための居室にあつては、床面において50ルックス以上の照度を確保することができるよう照明設備を設置すること。
第2 窓その他の閉口部で採光に有効な部分の面積のその床面積に対する割合で国土交通大臣が別に定めるもの
一 (略)
二 第1第三号又は第四号に定める措置が講じられている居室にあつては、10分の1とする。
分かりやすくマーキングしました。
省エネ性能向上のためであれば高さの最高限度を超える事が可能に
【建築基準法第55条、第58条】
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
第一種低層住居専用地域の高さの最高限度10mなどは原則として超えることができない | 省エネ性能向上のためやむを得ないものは許可を受ければ最高限度10mを超えることができる |
対象の規定
- 第一種低層住居専用地域 の高さの最高限度
- 第二種低層住居専用地域 の高さの最高限度
- 田園住居地域 の高さの最高限度
- 高度地区 の高さの最高限度
上記の高さの最高限度について、屋根の断熱改修や屋上への省エネ設備の設置等により高さ制限を超えることが構造上やむおえない場合、特例許可を受ける事が可能となりました。
高さ制限の特例を受けるには特定行政庁の許可が必要です。
省エネ性能向上のためであれば建蔽率・容積率を超える事が可能に
【建築基準法第52条、第53条】
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
建蔽率、容積率は原則として規定値以内とする必要がある | 省エネ性能向上のためやむを得ないものは許可を受ければ建蔽率、容積率の限度を超えることができる |
外壁の断熱改修や日射遮蔽のための庇の設置などにより床面積、建築面積が増加し容積率、建蔽率の制限に抵触していても、当該面積が増加することが構造上やむをえない場合、特例許可を受ける事が可能となりました。
容積率、建蔽率の特例を受けるには特定行政庁の許可が必要です。
住宅等で機械室等の容積率不算入の認定が受けやすくなりました
【建築基準法第52条】
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
法52条の容積率緩和許可に建築審査会の同意が必要 | 省エネ性能向上のため高効率給湯設備等を設けた場合、建築審査会の同意なく特定行政庁の認定が可能 |
住宅、老人ホーム等に機械室等を設置し容積率緩和の許可を行う際、従来は建築審査会の同意が必要だったが、告示に定める「高効率給湯設備」を設置する場合、建築審査会の同意なく特定行政庁が認定できるようになりました。
容積率の緩和を受けるには特定行政庁の認定が必要です。
高効率給湯設備ってどんなもの?
- 電気ヒートポンプ給湯機
- 潜熱回収型給湯機
- ハイブリッド給湯機
- 給湯の機能を有する燃料電池設備
- 給湯の機能を有するコージェネレーション設備
国土交通省 改正建築物省エネ法・建築基準法等に関する説明動画 改正検知器基準法について(2023.4.1施行内容の解説) より引用
令和5年3月22日 告示第209号に記載されています。
それに伴い確認申請書に「認定機械室等」という記載欄が増えました。詳しくは下記の記事をご覧ください。
一団地認定制度に大規模修繕・模様替えが追加されました
【建築基準法第86条】
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
一団地認定制度の対象は新築、増築、改築、移転 | 一団地認定制度の対象に大規模の修繕、模様替を追加 |
一団地認定制度(法第86条第1項)、連担建築物設計制度(法第86条第2項)は建築行為(新築、増築、改築、移転)を対象となっていたが、既存ストックの活用などの観点から当該制度に大規模の修繕、模様替が追加されました。
建築基準法施行令の一部を改正する政令 建蔽率、耐火性能の緩和など
2023年(令和5年)4月1日に施行されました。
工場、倉庫等に設ける荷下ろし用のひさしが5mまで建築面積不算入となりました
【令第2条】
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
建築面積の算定で庇の張出し部分は1m後退して算定される | 工場、倉庫の用途で一定の仕様の庇は建築面積を5m後退して算定できる |
現在、巣ごもり需要拡大、ネットショッピングの普及などから、大型の物流倉庫、物流センターのニーズが高まっている。
そのため、工場、倉庫などで荷物の積卸し等を行うための一定の空地を設けた大型の庇については5mを限度に建築面積を不算入とする事が可能になりました。
当該緩和を受ける建築面積とは別に従来の建築面積も算定する必要があります。
国土交通省 改正建築物省エネ法・建築基準法等に関する説明動画 改正検知器基準法について(2023.4.1施行内容の解説) より引用
建築面積に不算入となる条件とは?
工場、倉庫の用途に供する建築物で貨物の積卸し等の業務に使用される庇で
- 庇の先端は隣地境界線から5m以上離れていること
- 隣地境界線から庇の天端までは1:1の勾配の斜線に抵触しないこと
- 庇の全部が不燃材料で作られていること
- 庇の上部に階を設けないこと(非常用進入口、室外機置場等はOK)
- 緩和される建築面積は当該敷地に建築できる最大建築面積の1/10まで
それに伴い確認申請書に建蔽率の緩和を受けた面積を記入する欄が増えました。詳しくは下記の記事をご覧ください。
階数に応じて要求される耐火時間が調整されました
【令第107条】
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
主要構造部の耐火時間は階によって60分、120分、180分と60分きざみ | 主要構造部の耐火時間は階によって60分、90分、120分、150分、180分と30分きざみ |
耐火建築物の主要構造部に求められる階ごとの耐火時間が
- 最上階から数えた階数が5以上で9以内の階の壁、柱、床及びはりの耐火時間が、2時間から1時間30分に変更
- 最上階から数えた階数が15以上で19以内の階の柱及びはりの耐火時間について、3時間から2時間30分に変更
国土交通省 改正建築物省エネ法・建築基準法等に関する説明動画 改正検知器基準法について(2023.4.1施行内容の解説) より引用
特定行政庁が定期報告の対象規模を引き下げる事が可能になりました
【法第8条】
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
定期報告の対象は5階以上1000㎡以上 | 定期報告の対象を3階以上200㎡以上に特定行政庁が指定できる |
特定行政庁が指定できる定期報告の対象規模を拡大されました。
旧:事務所などで階数5以上かつ延べ面積 1000㎡超
新:事務所などで階数3以上かつ延べ面積 200 ㎡超
無窓居室でも一定の要件をみたした場合、歩行距離、重複距離が緩和
【令第 120 条、令111条】
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
採光無窓の居室の歩行距離は30m(40m)以下 | 採光無窓でも一定の条件を満たした居室は歩行距離50m(60m)以下 |
令120条の規定により歩行距離が50mと定められている場合であっても採光無窓の居室にあっては30mとなってしまいます。
一定の要件をみたした居室に関しては採光無窓の居室であっても50mとする事が可能になりました。
一定の要件とは 令和5年3月20日 国土交通省告示第208号 に示されています。
要約すると下記の事が定められています。
- 居室の床面積
- 避難経路の構造
- 消火設備
- 非常用照明の設置
- 警報設備の設置
これで小区画されたテレワークスペースなどを作る事が可能になりますね
中央管理方式の空気調和設備の基準が見直しされました
まずはザックリ解説 | ||
法改正前 | ⇒ | 法改正後 |
一酸化炭素の含有量100万分の10以下、温度17度以上28度以下 | 一酸化炭素の含有量100万分の6以下、温度18度以上28度以下 |
中央管理方式の空気調和設備の基準が、現在の基準に則した基準に見直されました。
2年施行もの
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
3年施行もの(四号建築物の範囲が縮小)
2025年(令和7年)4月1日に改正予定の内容は主に四号建築物の範囲の縮小です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。