令和5年7月21日に令和5年度一級建築士製図試験の課題が発表されました。
課題は『図書館』です。
そこで今回の授業では図書館にかかる建築基準法についてまとめました。
製図試験の対策にお役立てください。
わたしが製図試験を受験した際に特に注意した点などをお知らせします。
わたしが受験した時の課題は美術館でした。
図書館3 (建築設計資料)には色々な事例が載っていてイメージしやすかったです。
それから5か所くらい実際の美術館を巡りました。
実物を見ると動線やゾーニングなどなるほどなと思う事が多かったです。
図書館の建築基準法上の位置づけ
図書館は法6条第1項一号に掲げる特殊建築物です。
法別表第一の(3)の分類となります。(令115条の3第二号)
学校、体育館などと同じ分類です。
ただし、令126条の2第1項二号で定義されている『学校等』ではないので注意が必要です。(排煙はかかります)
図書館にかかる建築基準法の規定まとめ
前提条件
今回、一級建築士製図試験で出題される一般的な規模として、RC造、3階建て、2500㎡の図書館を想定して、かかる規定を列記します。
耐火建築物としなければならない建築物(法27条)
3階に図書館の用途があるため、耐火建築物とする必要があります。
RC造であれば自然と主要構造部(柱、梁、外壁、床、屋根、階段)が耐火構造となり耐火建築物となります。
延焼ライン内の開口部は防火設備とする必要がありますので記載漏れに注意ください。
延焼ラインの防火設備の記載漏れは特に注意ですよ。
居室の採光、換気(法28条、令19条)
図書館に設けられる居室は令19条の採光の規定はかからないので1/5、1/7、1/10などの採光は必要ありません。
ただし、採光無窓かどうかの検討は必要になります。
採光無窓の居室は
- 非常用照明の設置が必要
- 歩行距離が短くなる
- 敷地内通路が必要
採光無窓の場合、上記の様な規定が強化されます。
製図試験において主たる居室は外壁面に接して設けるので採光無窓となる事はほとんどないかと思います。
エスキスの関係上、小さめな居室はうっかり無窓居室となる場合もあります。
非常用照明、敷地内通路の設置は元々必要なので特に問題ありません。
問題は歩行距離が50m→30m(内装準不燃で40m)で重複距離が20m以内となります。
重複距離20m以内は特に注意です。
廊下幅員(法35条、令119条)
居室の床面積が200㎡を超える階には両側居室で1.6m以上、片側居室で1.2m以上の廊下幅員が必要となります。
また、バリアフリー法により1.2m、1.8mの廊下幅員が必要となります。
図書館の廊下幅員 | 両側居室 | 片側居室 |
建築基準法 | 1.6m以上 | 1.2m以上 |
建築物移動等円滑化基準 | 1.2m以上 | |
建築物移動等円滑化誘導基準 | 1.8m以上 |
製図試験においては柱のでっぱりを考慮して
1.2m以上必要な場合→2.0mスパン
1.6m以上必要な場合→2.5mスパン
1.8m以上必要な場合→3.0mスパン
とする事で有効寸法が確保できます。
歩行距離、重複距離(法35条、令120条)
図書館の歩行距離は50m以内(内装準不燃で60m以内)、重複距離は25m(30m)以内となります。
採光無窓の居室は各距離が短くなるので注意が必要です。
プラン上、どうしても重複距離が取れない場合は『避難上有効なバルコニー』を設置することで回避することも可能です。
製図試験は時間がシビアなので普段起こらないことが起きるとパニックになってしまいます。
重複距離が取れずに部屋割りを考え直す時間はありません。
冷静に対処できるよう回避方法を頭に入れておきましょう。
一級建築士製図試験における歩行距離、重複距離の記載方法、注意点をまとめましたので下記の記事もぜひご覧ください。
2以上の直通階段の設置(法35条、令121条)
図書館は用途として2以上の直通階段は必要ありません。
5階以下の階で居室の床面積が2階は400㎡、3階は200㎡を超えることにより2以上の直通階段が必要となります。
2以上の直通階段は文字通り『直通』する必要がありますので3階から1階まで直通するように設置して下さい。
3階~2階の階段と2階~1階の階段の位置がズレたり、階段の途中に扉を設けたりすると直通階段になりません。
階段の位置がズレていると1発不合格です。
わたしはエスキスで階段の位置決めが苦手でした。
1階のプランができて、2階のプランを考える時、階段がここだとうまく納まらない…という事が多々ありました。
まずはざっくり大きい部屋と階段の位置、廊下の動線を決めてからエスキスに入りましょう。
避難階段の設置(法35条、令122条)
避難階段は5階以上、地下2階以下の階がある場合に設置が必要となるため、今回の課題では不要と思われます。
排煙設備(法35条、令126条の2、令126条の3)
図書館は特殊建築物で床面積が500㎡以上なので排煙設備が必要となります。
令126条の2第1項二号の学校等には当てはまらないので免除はできません。
排煙設備とは
- 自然排煙設備
- 機械排煙設備
非常用の照明装置(法35条、令126条の4、令126条の5)
図書館は特殊建築物ですので非常用照明の設置が必要です。
令126条の4第1項三号の学校等には当てはまらないので免除はできません。
床面において1ルックス以上の非常用照明を各居室、避難経路に設置する必要があります。
非常用の進入口(法35条、令126条の6、令126条の7)
3階に非常の進入口または代替進入口を設置する必要があります。
製図試験においては代替進入口を設置されることが多いかと思います。
道路に面する外壁面に10m以内ごとに設置しましょう。
サイズは幅750×高さ1200以上が必要となります。
代替進入口も記入するのを忘れることが多い項目です。
わたしは作図完了後、記載漏れが多い項目リストを作って最終チェックしていました。
敷地内通路(法35条、令128条)
図書館は特殊建築物ですので敷地内通路が必要です。
主要な出入口から有効1500以上の敷地内通路を確保しましょう。
敷地内通路の詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
特殊建築物等の内装(法35条の2、令128条の4、令128条の5)
図書館は用途による内装制限の規制はありません。
3階以上500㎡以上で内装制限がかかります。
令128条の4第2項の学校等には当てはまらないので免除はできません。
居室の天井、壁の仕上を難燃材料以上、避難経路の天井、壁の仕上を準不燃材料とする必要があります。
階段(法36条、令23条)
図書館は用途による階段寸法の規定はありません。
直上階の居室の面積が200㎡を超える場合に以下の寸法が必要となります。
- 幅 120cm以上(屋外階段は90cm以上)
- 蹴上 20cm以下
- 踏面 24cm以上
手すりの記載を忘れがちです。
忘れないように注意してください。
また、200㎡を超える多目的ホールなどの要求室がある場合、「集会場」となりますので、客用の階段は以下の寸法となります。
- 幅 140cm以上(屋外階段は90cm以上)
- 蹴上 18cm以下
- 踏面 26cm以上
防火区画(法36条、令112条)
面積区画
耐火建築物なので1500㎡以内ごとに面積区画が必要です。
面積区画は耐火構造の壁、床で区画、開口部は常時閉鎖式又は随時閉鎖式の特定防火設備での区画となります。
竪穴区画
3階に居室を有する耐火建築物ですので竪穴区画が必要です。
階段、EV、吹抜けとその他の部分を耐火構造の壁、床で区画、開口部は常時閉鎖式又は随時閉鎖式の遮煙性能付きの防火設備での区画となります。
令112条11項一号のただし書きにより避難階の直上階のみに通ずる階段、吹抜けは内装を不燃とする事で竪穴区画を免除することが可能です。
面積区画と竪穴区画を兼用して階段とEVの扉を常時閉鎖式又は随時閉鎖式の遮煙性能付きの特定防火設備とする事が多いかと思います。
令112条11項一号のただし書きを適用すると1階と2階が繋がってしまうので面積区画が成立しない可能性があります。
令112条11項一号のただし書きが使えそうだなと思っても区画しておく方がよいでしょう。
竪穴区画についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
異種用途区画
3階に図書館の用途があるので図書館とその他の部分に異種用途区画が必要です。
1階に駐車場などを設ける場合には図書館の部分と駐車場の部分を異種用途区画して下さい。
また、200㎡を超える多目的ホールなどの要求室がある場合、その部分は「集会場」となりますので異種用途区画が必要となります。
異種用途区画は耐火構造の壁、床で区画、開口部は常時閉鎖式又は随時閉鎖式の遮煙性能付きの特定防火設備での区画となります。
防火区画に用いる防火設備の種類はこちらの記事をご覧ください。
用途地域等(法48条)
図書館は第一種低層住居専用地域に建築することが可能です。
つまりほとんどの用途地域に建築可能です。
用途規制上建築できないのは工業専用地域のみです。
住居系の用途地域が設定された場合、容積率、建蔽率、斜線制限などがネックになりそうです。
また、近隣の住民に配慮した設計とする必要がありそうです。
容積率(法52条)
容積率は指定容積率と道路幅員によって求める容積率の小さい方が採用されます。
製図試験においては2面道路で8m程度の前面道路となることが多いのでほとんどの場合、指定容積率となります。
図書館で容積緩和となるのは昇降機と駐車場です。
昇降機については容積緩和できる昇降機とできない昇降機があるので注意ください。
容積緩和できる昇降機
- 乗用エレベーター
- 人荷用エレベーター
- 荷物用エレベーター
容積緩和できない昇降機
- 小荷物専用昇降機
- エスカレーター
- 段差解消機
自動車車庫の容積緩和は延べ面積の1/5までです。
建蔽率(法53条)
耐火建築物として設計されるので防火地域、準防火地域であれば指定建蔽率に+10%となります。
建築物の各部分の高さ(法56条)
道路斜線
道路斜線は用途地域により以下の通りとなります。
住居系 対面の道路境界線までの水平距離×1.25
工業系、商業系 対面の道路境界線までの水平距離×1.5
道路斜線についてはエスキスの際、建物配置、3階の形状を意識しておく必要があります。
後退緩和を使う場合は令130条の12に適合するようにして下さい。
1.2mを超える塀などを設置できません。
北側斜線
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域の場合は北側斜線がかかります。
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域
北側隣地までの水平距離×1.25+5m
第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域
北側隣地までの水平距離×1.25+10m
日影規制(法56条の2)
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域では軒高が7mを超える場合
その他の用途地域では最高高さが10mを超える場合に日影規制がかかります。
製図試験においては日影規制の書き込みは無いかと思いますので上記の規模でかかることだけ頭に入れておきましょう。
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